今こそ手に取りたい「3.11を読み解く3冊」

 あの日から5年――。

 東日本大震災とこれに伴い起きた原発事故は、案の定と言うべきか、すでに風化しようとしている。

 3.11直後、被災地と連帯した人々はどこへ行ってしまったのか。国論を二分した脱原発派vs.原発推進派の議論は、結論を待たずに消えてしまったのか。

 傷は時とともに、やがて癒えるかもしれない。だが、決して忘却してはいけない。

 震災5周年の今、読むべき本が以下の3作だ。

17万部を売り上げた「ベストセラーベストセラー原発本」


『原発のウソ』小出裕章(扶桑社新書)

 3.11から3か月も経ずに出版されると、わずか20日間で17万部を売り上げたベストセラー。原発問題の入門書と言っていいだろう。

小出裕章『原発のウソ』(扶桑社新書)

「原発のコストは高い」「“安全な被曝量”は存在しない」「原発を全部止めても電気は足りる」――。レベル7の原発事故を経験した今、常識となったこれらの事実は、同書によって広く知られるようになった。地震大国であるにもかかわらず54基もの原発を抱えながら、3.11前の日本ではそのリスクに関心さえ示されなかったのだ。

 出版の時期が時期だけに、紙幅の半分を福島第一原発の現状と、放射能から身を守る方法に割いている。今、改めて目を通せば、当時の逼迫したヒリヒリとした空気が甦る。残りの半分は、原子力を理解するための基礎知識や、日本の原発の問題点が、中学生でもわかるような平易な文体で綴られる。

 行間から滲み出るのは、40年にわたり原発の危険性を訴え続けてきた学者の矜持と誠実な人柄だ。原子力の平和利用を夢見て研究者を志すが、放射線被害に着目したことをきっかけに反原発に転じた反骨の学者は、その代償として地位には恵まれなかった。昨年、長年勤めた京大原子炉実験所助教を退官した小出氏は、3.11から5年後のこの国をどんな想いで見つめているのだろうか……。

気鋭の社会学者による「フクシマ」の構造分析


『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』開沼博(青土社)

 ’84年、福島県いわき市生まれ。気鋭の若手社会学者による東大修士論文に加筆して書籍化。

開沼博著『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)

「本書は原子力や原発それ自体の研究ではない」と著者が明かすように、メインテーマは原発ではなく、近代から現代にわたる日本の中央と地方の関係をポスト・コロニアリズム・スタディーズの手法で炙り出す。

 福島県は、明治期には豊富な産出量を誇る炭鉱からの石炭で、首都圏のエネルギー需要を支えた。こうした歴史的関係を中央と共有するフクシマが、原発立地自治体になったのは必然だった。こうして福島に生まれた「原子力ムラ」が、中央で電力会社や関係省庁などによって形成される「原子力ムラ」と互いに引きつけられていく過程を、丹念なフィールドワークと膨大な資料で明らかにする。

 開沼氏は、原発は立地自治体にただ押しつけられたわけでなく、自治体自らが原発を欲し、進んで受け入れていった歴史を指摘する。フクシマには、この国の中央から見れば内的植民地の側面を持っているのだ。都市生活者が使うエネルギーを、地方の原発に依存し続けてきた事実を知れば、安易に原発立地自治体を批判することが天に唾するに等しいことがわかるだろう。

 本書のベースとなった修士論文が完成したのは、’11年1月。ところが、3.11を経ても著者の確かな視座や主張の説得力がまったく揺らがないのは、特筆すべき点だ。また、原発事故というノイズが排除されており(論文執筆は事故前)、むしろ中央と地方の宗主国と植民地のような関係がくっきりと浮かび上がる。

必然であった奇跡の救出劇


『救出 3・11気仙沼 公民館に取り残された446人』猪瀬直樹(河出書房新社)

 5年前のあの日、宮城県気仙沼は巨大な津波に襲われた。

 水没した公民館には、生まれたばかりの赤ん坊や保育園児71人を含む老若男女446人が避難していた。やがて水が引いていくと、今度は漏れ出た重油に引火。公民館の四方を取り囲んでいた海が燃えたのである。

猪瀬直樹著『救出 3・11気仙沼 公民館に取り残された446人』(河出書房新社)

「火の海 ダメかも がんばる」――。

 避難していた1人の女性が、電池の切れかけた携帯電話で、遠くロンドンで働く息子にメールを打った。息子はツイッターで救出を要請。このツイートを見た東京の会社員が、本書の著者であり、当時、都副知事を務めていた猪瀬氏にツイートを送った。

 猪瀬副知事は「これはデマではない」と即断し、都防災部長に連絡。東京消防庁のヘリが出動し、446人全員が無事救出された。

 絶体絶命の危機から全員救出までを、迫真の筆致で描いたノンフィクションは感動的だ。だが本書が出色なのは、感動的な救出劇をただ振り返るのではなく、公民館に避難していたひとりひとりの人生を丹念に掘り下げ、奇跡的な脱出はむしろ必然的になしえたものと結論づけている点だ。それを著者は“必然の偶然”が起こした奇跡という。

 猪瀬氏は、過去の作品でも一見平板な視点から物語を導入し、誰もが考えもしないような結論にスムーズに着地させる離れ業を何度もやってのけてきている。本作では1日の救出劇のルポルタージュが、避難民たちの魅力溢れる群像劇にも見え、気仙沼から海外に開いた海洋国家・日本の国家論とも受け取れる。猪瀬氏らしい仕事と言えるだろう。

 現在なら、危機管理の実話として読むもよし、日本人とは? 日本とは? といった大きな物語を汲み取るのもよい。

取材・文/齊藤武宏

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