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あの人気サイトの“中の人”ってどんな人?

 ホームページやブログなどのサイトを運営したり、管理する人のことを最近では「中の人」と呼ぶ。最近では企業の公式Twitterを管理、更新している人のことも「中の人」と呼ばれている。そして、ブログやホームページ、Twitterで高い人気を得るためには、「中の人」のセンスにかかっていると言っても過言ではない。  顔の見えないインターネット社会において、興味が沸くのはこうした中の人の素顔である。どんな人があんな面白いことを書いているんだろうか? どうやってネタ集めをしているんだろうか? そして実はサイト運営で大儲けしているんじゃ……なんてことも想像してしまう人は少なくない。ASCII.jpの人気連載「顔の見えるインターネット」でそんな中の人たち100人以上に話を聞いたライターの古田雄介氏に、いったい中の人たちはどんな人なのか、話を聞いてみた。 ――すでに100人以上の中の人にお目にかかったということですが、取材はかなりたいへんだったそうですね。 古田「やはり表に出たくないという人も多いですからね。連載と書籍で105人の方にインタビューさせていただきましたが、無視された方も含めると、その2倍の方からNGの返事をもらいました。3人にお願いしたら1人は受けてくれるというペースでしたね」 ――あんまり出たがらない方が多いんでしょうか? 古田「本人が表に出て変な色が付くのを嫌がる人は多いですね。あとは目立つことでアンチ的な読者を刺激して炎上することを警戒される方もいます。個人情報が晒されて実害につながるリスクもありますしね」
古田雄介

古田氏によれば「顔出しや本名出しをNGとする人も多かったが、その理由はバラバラ。取材を通して、個人情報の防御ラインを自前で整えながら戦うのが、ネットで活躍するひとつの極意だと思い至った」とか

――記事にするとき、インターネット特有の「説明の難しさ」があったそうですね。 古田「そのサイトやTwitter IDをすでに知っている人はかなり深く知っているけど、知らない人はとことん知らない。そういう温度差がインターネットには当たり前に存在するので、知名度の平均値をとった紹介というのができないんですよね。『週刊SPA!の連載でおなじみの~』だったり、歌手だったら『●●という映画の主題歌でブレイクした〜』だったり、そういうだいたい真ん中くらいのスタンスをとった感じで端折ることができない。だから、イチからそこのすごさや特異性を短く伝えるのはけっこう骨が折れましたね。説明不足だと褒めている理由が伝わりきれずに内輪臭くなるんです。『何知らねぇ世界で褒めあってんだ、気持ち悪ぃ』って。でも、説明しすぎると、全体が長くなって読むのに疲れるから敬遠されてしまう。そのヘンのバランスは毎回調整していました」 ――最近ではTwitterの登場で、人気tweetを連発する有名人や企業の公式アカウントを管理する中の人に注目が集まっています。 古田「傾向として“お堅い企業”と言われる会社ほど、ゆるいtweetをするとウケる傾向にありますね」 ――NHKの公式Twitterアカウントが裏番組で「崖の上のポニョ」をやってたときに「魚め…」とつぶやいて話題になりました。 古田「NHK_PRの中の人にも書籍で話を聞いたんですが、一連のゆるいtweetはかなり綿密な思慮の上にあるんですよね。ほかにも、最近はシャープとTANITAがTwitter上で疑似恋愛をして話題にもなりました。こうした企業がTwitterの公式アカウントで行う広報は、新しい形だと思います。ただ、ああいうのはあらゆるタイプの読者の反応の2手3手先を読むセンスと、ミスしたときに責任をとる覚悟が持ててないとできない。だからより一層、中の人のセンスが求められるようになってきていると思うんです」 ――企業の公式アカウントを管理する中の人は会社員として、そのほかのブログやサイトなどの中の人は普段、何をしているんでしょうか? 興味が沸くところです。 古田「千差万別。職業などの共通項はたぶん存在しないと思いますよ。一日の訪問者数からすればアフィリエイトもすごい額に……と思われているようですが、超が付く人気サイトでもようやく月に数万円ということもザラ。本職でやるなんて一握り以下でしょうね」 ――古田さんはさまざまなサイトやTwitterアカウントの中の人と会って、全体的にどんな印象を受けましたか? 古田「趣味やライフワークの延長で深いところまで踏み込んだ方が多いので、運営するサイトにはものすごい情念が詰まっていると思います。アキバBlogの中の人なんかは、365日のうち、360日は秋葉原に行ってるんですよ。僕だったら発狂してるレベルですね。ほかにも自殺などが起きた事故物件を調べて掲載している大島てるさんなんかは、膨大な敵を作る覚悟を持ちながら、裁判所に通って事故物件の裏をとる日常を過ごしていたりしています。やり続ける情熱がとにかくすごいんですよ。皆さん、共通して言えることは、頭の回転が速いと言うか脳内地図がクリアと言うか、自分の考えに対する自己分析がものすごく深くて明晰なんですよ。僕らがたまに使ってしまう『なんとなく……』という表現の『なんとなく』の部分がないんです。自身のストロングポイントにおいて、かなり解像度の高い理由や考え、思いを持ってらっしゃるということを強く感じましたね」  古田さんが出会った中の人たちのインタビューをまとめた『中の人 ネット界のトップスター26人の素顔』が、アスキー・メディアワークスから好評発売中。虚構新聞やNHK広報局、Chikirinの日記など、人気のサイトやTwitterの中の人へのインタビューが詰まっており、彼らが何を考え、どんな思いでいるのかが赤裸々に語られている。読めば人気サイトの秘密に触れられるはずだ。 【古田雄介氏】
古田雄介

古田雄介氏

‘77年名古屋生まれのライター。週刊SPA!本誌「デジペディア New Products」でも活躍中。「死とインターネット」(Business Media 誠)や「古田雄介のアキバPick UP!」(ITmedia PC USER)などを連載中。Twitter IDは@yskfuruta。 <文・構成/テポドン(本誌)>
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