作家・溝口敦氏『佐野眞一140件の盗用』を告発【詫び状も公開】
昨年10月に起こった、ノンフィクション作家・佐野眞一氏の『週刊朝日』連載「ハシシタ 奴の本性」問題は、朝日新聞社の橋下徹・大阪市長への謝罪で幕を閉じた。しかし、騒動の直後、佐野氏の過去の著作の盗用問題がネットを中心に広まり、新たな火種が生じた。ここで立ち上がったのが佐野氏と同世代のノンフィクション作家で、『暴力団』『食肉の帝王』などのベストセラーで有名な溝口敦氏である。4月22日、溝口氏は元ガジェット通信の記者・荒井香織氏とともに『ノンフィクションの「巨人」佐野眞一が殺したジャーナリズム』(宝島社)を上梓するのだ(編著)。
同書では、正力松太郎の評伝『巨怪伝』、週刊ポスト連載「化城の人」、第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『旅する巨人』など佐野氏を代表する著作での盗用・剽窃を140件以上、対照表をつけて掲載している。これだけの盗用を佐野氏が行なっていたことにまず驚くが、溝口氏が体を張って告発しようとしたのはなぜなのか? 話を聞いた。
――この本を出すことになったきっかけをまず聞かせてください。
「まず、週刊朝日問題の直後、猪瀬直樹氏(東京都知事)がツイッターで佐野氏の過去の盗用問題をいっきに5つも公表した。猪瀬氏は元々、ノンフィクションライターで、佐野氏とは旧知の間柄。80年代から佐野氏の盗用癖を知っていたのです。私自身も盗用された過去があり、佐野氏の盗用癖は噂レベルで知っていましたが、具体的に作品名や盗用箇所が指摘されてはじめて、これは放置できないと強く思った。とくに佐野氏はノンフィクションの取材手法について、若手記者や学生向けに伝授する本も書いており、開高健ノンフィクション賞の選考委員まで務めていた」
――溝口さん自身、盗用された被害者になるわけですね。
「月刊『現代』1985年11月号の佐野氏の記事『池田大作【野望の軌跡】』に、私が書いた『池田大作ドキュメント――堕ちた庶民の神』(三一書房/1981年刊)からの盗用が10か所もあった。私が抗議すると、当時の編集長と担当編集は盗用を認め、『当該記事は単行本に収録しない』と私に詫びました。その後、佐野氏本人から編集者を介して詫び状が届いたんです。今回、その詫び状を本の中ではじめて公開しました」
⇒「詫び状」の写真 https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=426209
――今回の本では、盗用が発覚した佐野氏の著作の版元に質問状を送付しています。しかし、小学館や講談社、文藝春秋をはじめ、大手版元はどこも「盗用・剽窃とは考えていない」「コメントを差し控える」と回答しています。
「きっちり盗用があったと認めたのは新潮社だけ。ほかの大手版元の対応は大問題ですよ。佐野氏は版元にとって、ノンフィクションでは唯一、売れる作家なので出版界全体で『見て見ぬふり』をしようという空気があるのかもしれません」
――今回の本の出版は、溝口さんの表現の場にもなっている大手版元に歯向かうようにも見えます。そんな大きな決断をした理由は?
「もちろん、こうした大手版元は私自信、長年、お世話になってきました。でも“暴走老人”と呼ばれても、やるしかない。私が言わなければ、誰も指摘しないからです。私は過去、暴力団関連の著作で、別の著者から盗用されて著作権侵害の訴訟を起こした経験がある。最終的に和解になりましたが、その条件は2冊の著作の在庫の断裁と解決金の支払いで、実質的に完勝しました。今回、『佐野眞一が殺したジャーナリスム』の刊行に合わせ、週刊ポスト誌上の佐野氏の連載『化城の人』で44か所にわたって盗用された日隈威徳氏(宗教学者)が、佐野氏と小学館に対して著作権侵害で提訴する動きがあると聞いています。盗用が発覚した佐野氏の著作は出版社も責任を持って、すべて断裁にすべきです」
溝口氏は、「盗用された側が気づいていないだけで、佐野氏の著作にはまだ盗用が発覚していないものも多数あるはずだ」と言う。佐野氏の常習的な盗用癖が法廷で明らかになったとき、大手版元は果たしてどういう対応を取るのだろうか。今後の動きに注目したい。 <取材・文・写真/日刊SPA!取材班>
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『ノンフィクションの「巨人」佐野眞一が殺したジャーナリズム 大手出版社が沈黙しつづける盗用・剽窃問題の真相』 読者はこうして27年間、欺かれてきた! ![]() |
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