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大坂なおみの帰国記者会見、恥ずかしい質問にジリジリした――鴻上尚史

― 連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―


恥ずかしい質問にジリジリしたあのマスコミ会見


 大坂なおみさんの帰国記者会見を見て、じつに複雑な気持ちになりました。

 大坂さんとは規模も意味も違いすぎますが、僕も芝居の制作発表でマスコミが集まる会見をやります。

 一般新聞や雑誌・ネットの記者さんだけなら、比較的真面目に芝居の内容を聞いてくれます。

 でも、テレビやスポーツ新聞、芸能雑誌が中心になると、まず、芝居のことは聞かれません。芝居の制作発表なのに、メインで聞かれるのは、出演者の人柄だったり、稽古場の爆笑エピソードだったり、お互いの印象だったりします。

 何がテーマで、どんな内容なのかは、ほんの付け足しです。

 今回の『ローリング・ソング』でも、内容に関しては数分、それ以外が30分以上でした。

 僕はこういうマスコミ会見を30年近くやっているので慣れっこというか、諦めています。派手な会見の時は、芸能ニュースになることが目的で、内容を誠実に伝えることは不可能なんだと腹をくくっています。

 くくっていますが、20歳で全米オープン優勝という偉業を達成した人に、「食べたいと言っていた抹茶アイスクリームは食べたのですか?」とか「週末までに行ってみたいところはどこですか?」「日本語でメッセージをお願いします」「かけてもらって一番嬉しかった言葉はなんですか?」なんて質問を連発している会見を見ると、「いや、テニスのこと、もっと聞いてあげなさいよ」とジリジリするのです。

 偉大な業績をあげた人をじつに理解可能な地平までひきずりおろしたいんだなと感じるのです。

「かけてもらって一番嬉しかった言葉はなんですか?」「日本のファンの声は届いていましたか?」なんてのは、誰でも言えて、誰にでも使える質問です。そもそも、質問自体が恥ずかしいです。

 また、「海外で、大坂さんの活躍や存在が古い日本人像を見直したり考え直すきっかけになっていると報道されているが、自身はアイデンティティを含めて、その辺をどのように受け止めているか?」という、じつに英語の翻訳に苦しむ質問もありました。

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「日本は単一民族」と思い込んでいる人々の間で生きるのは大変

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この世界はあなたが思うよりはるかに広い

本連載をまとめた「ドン・キホーテのピアス」第17巻。鴻上による、この国のゆるやかな、でも確実な変化の記録





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