“名優”パイパーと“新進”ブレットの短編映画――フミ斎藤のプロレス講座別冊WWEヒストリー第126回
ハルク・ホーガンの宿命のライバルとして一世を風びしたパイパーは、ホーガンの“引退ドラマ”とみずからの現役生活のクライマックスとをパラレルに重ね合わせていた。ホーガンの“ラストマッチ”の対戦相手がセッド・ジャスティスならば、パイパーの“選択”はブレットのほかにはいなかった。
ビンス・マクマホンはポスト・ホーガン路線の“人物レイアウト”づくりを急いでいた。ビンスはホーガンに代わるメインイベンター候補の“本命”はあくまでもジャスティスととらえていたが、ビンス自身の気持ちに微妙な変化が生じたのか、あるいはスーパーイベントのクライマックスに刺激的なビッグ・サプライスを用意しようとしたのか、“レッスルマニア8”開催直前になって、7カ月まえに解雇したアルティメット・ウォリアーと急きょ再契約を交わした。
“レッスルマニア8”以降のハウスショーでは“Aツアー”にリック・フレアー対ランディ・サベージのWWE世界選手権、“Bツアー”にウォリアー対ジャスティス(またはウォリアー対パパ・シャンゴ)のシングルマッチがそれぞれメインイベントのポジションにラインナップされていた。
ビンスはポスト・ホーガン路線の主役の人選には目の色を変えたが、なぜか“ナンバー2”としてのポジションを担う人材を育てることにはそれほど執着しなかった。
パイパーは、ブレットのシングルプレーヤーとしての潜在能力をひじょうに高く評価していた。“レッスルマニア8”にラインナップされたパイパー対ブレットのシングルマッチは、WWEのリングではひじょうにめずらしいベビーフェースとベビーフェースの闘いだった。6万人の大観衆はパイパーの動きを目で追いながら、じつはパイパーが開けた“ブレットの引き出し”の中身を目撃していた。
ブレットは、パイパーにもひけをとらないプロレスの“達人”だった。パイパーがブレットをスリーパーホールドにとらえると、ブレットは両足でターンバックルを蹴り、そのまま後方にローリングしての変形エビ固めでパイパーの両肩をマットにつけた。下になったパイパーはスリーパーの体勢でブレットのアゴを絞めつづけたまま3カウントを聞いた。いままで観たことのない芸術的なフィニッシュ・シーンだった。
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