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「中国に朝貢せよ」でプチ炎上した外山恒一。その真意は「ほめ殺し」だった!?【1万字インタビュー】

外山氏は中国を“褒め殺し”ている?

――だから今のうちにアメリカから中国に寝返って、仲良くしておけというのが外山さんの主張ですよね? しかしあんな人権も何もないような国と、どうすれば仲良くできるでしょうか? 尖閣問題だけでなく、靖国参拝とか歴史認識の問題とか、対立点を山ほど抱えてしまっています。 外山:私が実際に経験したことをお話ししましょう。私は全国各地で時々“トークライブ”と称するイベントを開催していますが、私の“トークライブ”というのは、2時間なら2時間、最初から最後まで“質疑応答”です。聴衆に「何でも訊いてください」と言って、訊かれたことに答えるわけです。ある時、「過去の日本の戦争についてどうお考えですか?」という質問が出ました。それに対して私はまず、「前提として私は中華主義者であり、中華主義者としてお答えします」と言いました。 ――いつ頃の話ですか? 外山:3年ぐらい前だと思います。 ――その時点ですでにもう“中華主義者”を自称していたんですね。 外山:もっと前からですよ。10年前にはもう言ってたと思います。それは呉智英センセイの著作からの影響も大きい。呉智英センセイは、実はネトウヨ的な言説の源流でもあると私はニラんでいますが、“封建主義者”を自称して、『論語』の勉強会を主宰されたりもしていて、かなり前に何かの座談会で「最近の若者はアメリカ文化ばかりありがたがってケシカラン、支那の古典を読め、古典を」みたいな発言をされていたのも痛快でした。まだ直接お会いしたことはありませんが、私は極左時代から呉智英センセイの愛読者で、影響もかなり受けています。 ――それで、日本の過去の戦争に関する質問に“中華主義者として”どう答えたんですか? 外山:中華主義者ですから、というより単に厳然たる事実として、東アジアの中心は中国です。ここ100年か200年、一時的にパッとしなかっただけで、数千年来ずっとそうですよね。東アジア文明の中心は中国で、日本なんて東の辺境の未開な野蛮国の1つにすぎません。 ――そこまで言いますか。 外山:いいんです。謙譲は日本人の美徳です。大事なのはここからです。東アジアの中心は中国なんだから、19世紀に欧米列強が東アジアに侵攻してきた時に、中国こそ先頭に立って、属国である日本や朝鮮やベトナムその他を従えて、これと戦うべきでした。ところが当時の清朝末期の中国の政権は腐敗していて、周辺諸国をまとめるどころか、国内さえまとめきれずに、欧米列強の侵攻を許し、アヘン戦争であっさり負けてしまった。日本はむしろそれでビビったわけです。日本が古来ずっと範として仰いできた、あの強大な中国が負けた。このままだと日本も同じ運命をたどる、と危機感を抱いた“憂国の志士”たちが騒ぎ始めて、やがて明治維新に至るわけですね。で、中国が頼りにならないものだから、日本が代わりに先頭に立って、欧米列強からの圧力をはね返す陣形を東アジアに作らなきゃいけないと決意して、いろいろ頑張ってはみたものの、そもそも辺境の野蛮国の分際では荷が重すぎたというか、なにしろ中国と違ってそんな大役に挑むのは歴史上初めてのことだし、やり方はよく分からないわ、「日本ごときが生意気な」と却って朝鮮や中国から反発を食らうわ、大失敗して最終的にはみじめな敗戦国になってしまう。 ――ずいぶんな言い方ですね。そりゃ反発も受けますよ。 外山:しかし、たしかに中国の親分さんや朝鮮の兄貴にはだいぶご迷惑をおかけしましたが、元はといえば中国がちゃんとやらなかったからですよね? 日本は中国がやるべきことを肩代わりせざるをえない立場に不本意ながら追い込まれて、もともと向いてないので巧くやれなかっただけです。中国さえしっかりしていれば、あんなことにはならなかった。そもそも一番悪いのは欧米列強です。これと先頭に立って戦うことを中国がサボったので、本来は団結すべき東アジア諸国がバラバラになって、むしろ互いに敵対し合い、今でもその不幸な敵対関係が続いている。これでは欧米列強の思うツボです。だから、日本の過去の中国侵略について、中国が日本に謝れ。日本の朝鮮侵略についても、中国が朝鮮に謝れ。我々がしっかりしていなかったから、可愛いお前たちに要らぬ苦労をさせたな、って。東アジアの盟主としての矜持を示すべきなんです。そしたらネトウヨだって一夜にして親中派に寝返りますよ。 ――またエキセントリックに聞こえる論法を……。 外山:中国が日本に謝罪したからって、じゃあ中国から賠償金をもらおうなんて考える日本人なんかいませんし、口先ひとつで日本を親中派の国にできるんだから、中国としても何にも損はないでしょう。「これが中華主義者としての私の見解です」って答えたわけです。そしたら、その質問をしてきたのはフツーに日本人のオッサンだったんですが、実は聴衆の中に中華帝国様からの留学生様がお2人、混じっておられたんですね。もちろん私はそんなこと知らずに持論をぶってたんです。トークイベントが終わってその場で交流会って段になって、向こうから声をかけられました。 ――ヤバい状況ですね。相当怒られたんじゃないですか? 外山:逆です。まんざらでもない、って感じなんですよ。だって私の発言は一貫して、中国を立ててるわけですから。 ――それはそうですが、結論としては“中国が悪い”って言ってるわけでしょう? 外山:“過去の”中国が悪かったと言ってるだけです。当時の清朝が腐敗しており、それを打倒して成立した国民党政権も、孫文先生の短い一時期はともかく、あの蒋介石の野郎が実権を握ってからはろくなもんじゃなかったというのは、今の中国共産党だって「そのとおりだ」と言いますよ。清朝も国民党も欧米列強とちゃんと戦わなかった。毛沢東先生は正しくも国民党に対して「欧米列強とちゃんと戦え」と言っておられたが、まだ政権を獲っておられなかった。そこで不肖、我々日本人が中華帝国様に成り代わって欧米列強と戦おうと頑張ったが、しょせん向いてなかったんですよね、でへへ。しかし今や中国は世界に冠たる大国として見事な復活を遂げられました。今度こそ中国を中心に東アジアの団結を実現して、欧米列強の奴らに目にもの見せてくれてやる番です。もちろん我々日本人も喜んでついていきますよ、って話をして中国の方々が怒るわけないでしょう。 ――なんと都合のいい……。 外山:その時の中国人留学生様がたもお怒りになるどころか、大変ご機嫌でした。で、「過去のことについてはよく分かった。しかし現在の問題というものもあるでしょう。例えば尖閣諸島の問題ですよ」とさらにご下問になりました。 ――今度こそヤバい局面ですね。 外山:そんなことはありません。私は落ち着いて答えました。「申し訳ありませんが、尖閣諸島は中国のものではありませんよ。しかし我々日本のものでもありません。あれは琉球国のものです」って。そしたら留学生様も「そうかもしれんな」ととくに異論はないご様子でした。 ――うまいこと言い逃れたもんですね。 外山:私は心にもないことは言いません。私はもともと琉球独立論者ですし、すべて本気で言っていることです。とはいえ、正直なところ「中国人、御し易し」とこの時には思いました。とにかく中国を立ててさえいれば、ご機嫌なんです。 ――得意の“ほめ殺し”というやつですか。 外山:関西に住むファシストの大先輩にも「外山君の“中華主義”は実は“中華ほめ殺し主義”やな」と見抜かれてしまいました。しかしべつに仮に中国に見抜かれたってかまわないんです。公式の外交の場で「ほんとは“ほめ殺し”なんですけどね」みたいなことを言いさえしなければいい。儀礼第一の外交の場と、今こうして話してるような国内向けの発言の場とで、立場を使い分ける必要があることぐらい、日本なんかよりずっと政治というものに習熟した中華帝国様ならよく理解してくれますよ。実際、中国と周辺諸国とは何千年もそんなふうにして付き合ってきたんですから。
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中国をヨイショすべき?
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