女装小説家、新宿2丁目「女の子クラブ」へ行く――仙田学の『女のコより僕のほうが可愛いもんっ!!』
「可愛い~! 体ちっちゃ~い! 触りた~い!!」
女装姿の私に、くりこさんは満面の笑みを向けてきた。ママのくりこさんこそ、背中の開いたドレスで華麗に女装をしている。くりこさんは続ける。
「女装するとえっちな気分になるでしょう?」
第5回 女装小説家 仙田学の「女のコより僕のほうが可愛いもんっ!!」
新宿二丁目にある女装サロンバー「女の子クラブ」の店内には、まだお客さんの姿はまばらだ。40席ほどあるボックス席がほぼ満席になる金曜日だとはいえ、まだ7時の開店時刻を過ぎて1時間ほどしか経っていない。
「メイクしてもらってるとき、ドキドキしました……」
私は冗談で返そうとしたが、マジにしか聴こえない口調になってしまう。
男性が普段の格好のまま手ぶらで入店しても、衣装を借りてメイクもできるのが、女の子クラブのウリだ。初めて訪れた私は、キャストの女装子、しあちゃんにメイクをお願いした。斜め前に座って膝と膝をくっつけながら、息のかかるほどの近さでメイクをしてくれたしあちゃんは、びっくりするほど顔がちっちゃくて、細くていい匂いがした。私は目が合わせられず、自分の口臭が気になって口数を減らした。
「メイクは前戯みたいなものだからね」
少しの間をおいて返ってきた返事から、くりこさんの質問の真意がわかった。他の女装子にではなく、女装をした自分に対してえっちな気分にならなかったか? とおそらくくりこさんは訊いている。
「鏡に映った自分見て、興奮しました」
「女装って、自分の理想の女性像を具現化することだと思うの」
「タイプの女性、じゃなくて、なりたい女性、ですよね」
私は身を乗り出す。リードしていただく形で、取材は始まった。女の子クラブと、そこに集う人々について話を訊き、女装子たちのリアルに迫る、というのがこの取材の目的だ。
くりこさんが女装を始めたのは、28歳のとき。比較的遅咲きのデビューだった。以前から興味はあったが、その環境がなかったという。女の子クラブにお客として来て、女装をしてみたところ反応がよかったので続けることにした。いまでは仕事でしか女装はしない。面倒に感じることも多いという。そのあたりは、好きなことを仕事にすることにつきもののジレンマだろうか。
「女装をして、可愛くなった自分を見ると、胸に開いていた穴が埋まるような気がするんですよね。ひとから可愛いって言われるともっと満たされますし。女装でこれだけアガれるのは、もともと自己肯定感が低かったからなんじゃないかって……」
1
2
この連載の前回記事
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ