女装小説家、新宿2丁目「女の子クラブ」へ行く――仙田学の『女のコより僕のほうが可愛いもんっ!!』
女装とは理想の女性像を具現化する営みである、という認識を共有できて嬉しくなった私は、思いきって自分の女装感をさらにぶつけてみた。くりこさんは真剣な表情で聴いてくれたが、最後に首をかしげた。
「そこまで考えてる人はあんまりいないんじゃないかな? 楽しいからやってる、って人がほとんどだと思うよ。ディズニーランドに行くみたいな感覚? サラリーマンで、月曜から金曜まで仕事を頑張って、週末にここで女装をするのを楽しみにしてる人も多いしね」
さらりとかわされた感覚が心地よかった。いきなり下品な質問をしてしまったみたいで恥ずかしくもなる。
「女装をするとえっちな気分になるっておっしゃいましたけど、僕の場合は、性的なことと女装は結びつかないんです。男性に対して性的に惹かれるわけでも、女の子になりたいわけでもないし」
「そこは結びつく人と、結びつかない人と、分かれます。大きく3つのタイプに分かれるかな。まず、自分の女装姿に興奮する人。それから完全に趣味で女装してる人。あと、女性になりたい人」
くりこさんは、何かを問いかけるような目をこちらに向けてきた。
「どこで分かれるんでしょうね? 最初は趣味で女装を始めたんだけど、やってるうちに男性のことも好きになる人もいそうですよね」
「ギャップがいいのよ。こんなにかわいいのに、おちんちんついてる! みたいな。おちんちんついてる北川景子と、おま◯こがついてる小島よしおとだったら、どっち選ぶ?」
「北川景子です」
私は即答していた。
女の子クラブに来るお客さんのなかにも、さまざまなタイプがいるという。会社の同僚と飲みにきていた女性が、同じく客として来ていた女装子と結ばれて、結婚したこともある。女装子どうしのカップルも多い。ちなみにどちらも女装姿でセックスをすることを「カマレズ」という。
お客さんの約半数は既婚者で、そのほとんどは女装趣味を妻子には隠している。妻が敏感だからばれてしまった、というケースもなかにはあるが、好んでカミングアウトする人はほぼいない。既婚者向けに、女の子クラブでは、女装グッズを保管したり着替えをしたりできるロッカールームを月極めで貸し出すというサービスも行っている。
30~40代の既婚者の女装子が輪になって妻子の話をしている図は、想像してみると微笑ましい。つけまつげやウィッグの毛が車のなかに落ちているのが妻に見つかり、浮気を疑われる、というのは定番のあるあるエピソードなのだとか。バイ寄りのレズビアンのひとや、男装姿の女性も来ることもあり、客層は幅広い。
「ご家族は、くりこさんが女装をされていることはご存知なんですか?」
「カミングアウトしたとき、母親は泣いてました。でも、女装を仕事にして成功していることを知ったら認めてくれました。ただの趣味で女装してるだけだったら、わかってもらえなかったんじゃないかな。まだまだ女装は、まわりに理解されづらいと思います。女装イコール、オカマとかニューハーフって色がついちゃってるから。普通にファッションのひとつとして、『女装系』とかあってもいいと思うし、私としては女装の地位を上げたいと思っていて。女装は楽しいよってアピールをいつもするよう心がけてます」
話がひと区切りついたところで、くりこさんはカウンターの向こうに戻った。お茶をすすりながらひと息ついていると、視線を感じる。
「ヤりたい」
少し離れた席から私に声をかけてきたのは、黒いドレスに身を包んだ女装子だった。(次回に続く)
⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1328965
【仙田学】
京都府生まれ。都内在住。2002年、「早稲田文学新人賞」を受賞して作家デビュー。著書に『盗まれた遺書』(河出書房新社)、『ツルツルちゃん』(NMG文庫、オークラ出版)、出演映画に『鬼畜大宴会』(1997年)がある
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