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吉田戦車×江口寿史 対談――“YouTubeの猫動画にはかなわない時代”にギャグ漫画家が挑戦した絵本とは?

吉田戦車は「パーカーを着た侍」

――江口さんは56年生まれの77年デビュー、吉田さんは64年生まれの85年デビュー。生まれた年も、デビューした年も8年違うわけですが、初めて顔を合わせたのはいつでしたか? 吉田:初めてお会いしたのは、江口さんの単行本に収録するための鼎談で、相原コージさんと3人でお会いしたんですよね。司会が河崎実さんで。
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『なんとかなったワケ!』(角川書店)より

江口:そうそう、僕のリクエストで鼎談してもらったんだけど、ギャグ漫画家ってシャイな人が多いから。最初ずーっと黙ってて。「………」「………」「………」って沈黙が続いてて、司会の河崎さんがひとりでしゃべり続けてた(笑)。 ――お互いの初対面の印象は? 吉田:僕はずっとジャンプで江口さんの漫画を読んで育ったので、お会いしたときは「あー、目の前に神様がいる」って気持ちでした。 江口:僕は作品のイメージが強すぎて、きっとこけしみたいな、目の細いヤツ(吉田の初期の代表作『戦え!軍人くん』のイメージ)が来るんだろうと思ってたら、意外とさわやかな好青年で(笑)。しかし、(鼎談の写真を見ながら)このころからパーカー着てるんだねえ。僕はずっと吉田さんのことは「パーカーを着た侍」って呼んでいるんです。 吉田:このときってバブルで、DCブランドが当たり前みたいな風潮だったじゃないですか。反発もあってパーカーを着ていたんですよね。何かのパーティにもパーカーで行ったら、岡崎京子さんに「普段着にもほどがある!」って言われたのをよく覚えてます。 江口:あ、そもそも吉田さんのことは岡崎京子さんがホメてるのを見て知ったんですよ。まず、吉田戦車って名前に衝撃を受けた。「吉田」と「戦車」が並んでる感じが醸し出す空気が不気味で、自分のなかにはまったくない新しい感覚を見たと感じました。それで『軍人くん』やら『鋼の人』なんかを読んでみたら漫画も名前どおりの新感覚で。まいりましたね。 ――お会いしてみて、作品と本人のギャップはありましたか? 吉田:酒が入ってくれば、「ああ、漫画と同じ先ちゃんだなあ」って思うんだけど、素面だとお互いしゃべらないですよね。 江口:そもそも素面で話したことがほとんどないよね……。緊張するから、今日も一杯飲んでから来ました。いつも酒場で会うから昼間に街中でバッタリ会ったりすると変な感じですよね。お互い歩数計つけてウォーキング中だったりして。 吉田:最近50~60代の吉祥寺近辺の漫画家はみんなウォーキングしてますよね。 江口:もうみんなじじいだからね……。こないだも井の頭公園をウォーキングしてて、向かいから知ってる顔が歩いてくると思ったら大友(克洋)さんだったり(笑)。

「器の小さいマヌケさ」が愛しい(江口)

――お互いの、好きな作品について教えてください。 江口:まずはやっぱり『伝染るんです。』。なかでも好きなのが、みかんの皮をツルツルにするやつ! 僕もね、みかんの皮をツルツルにしないと気が済まないんですよ。だからすごくよくわかる。この、ヤクザが出てくる一連の作品を、僕は牛田シリーズって呼んでるんだけど、器の小さいマヌケさが愛しいよね(笑)。 ⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1357471
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『伝染るんです。』(吉田戦車/小学館)1巻 P12より

吉田:ああ、でも僕のなかでやっぱりこういう「マヌケなヤクザ」っていうのは江口さんの描いた大空組(『ストップ!!ひばりくん!』)の影響があるように思います。 江口:あとはね、恋人同士なのに名字で呼ぶヤツ! 「山田!」って最高だよね。いま読んでも全然古くないですよね。女のコもかわいいし。僕、吉田さんの描く女のコ好きなんです。
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『伝染るんです。』(吉田戦車/小学館)1巻p32より

吉田:ありがとうございます。もともと女の人のグラビアが載っているような雑誌でデビューしているから、女のコを一生懸命描きたいって気持ちは自分なりにあるんです。 江口:新しい字を発明しましたっていうのは、ここらへんから作風が確立している感じがします。
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『伝染るんです。』(吉田戦車/小学館)1巻p67より

吉田:これは、当時の担当編集だった江上さん(江上英樹氏。元『IKKI』編集長)がフォントを作ってくれたんですよ。これ、作れるよって。このとき、江上さんは相原コージさん、竹熊健太郎さん、中川いさみさんという錚々たるギャグ漫画家を担当していて。このままじゃおかしくなる!って思って、精神のバランスを保つために吉川英治の『宮本武蔵』を読んでいたそうです。 江口:江上さんは僕も担当してもらっていたんだけど、最初漫画に異動してきたときは全然漫画に詳しくなくて。でも吉田さんを担当しはじめたあたりからのキレっぷりはすごいですよね。そこに、デザイナーの祖父江(慎)さんが加わるからもう……恐ろしい(笑)。 ――最近の吉田作品だと何に注目していますか? 江口:『おかゆネコ』はね、まだ全部は読んでないんですよ。だって、この作品はおそろしいですよ。「おかゆ」で7巻も出すっておかしいでしょ。毎回違うおかゆだし、ギャグとしておもしろいし、ツブ(主人公の猫)もかわいいし。力技ですよ。吉田戦車にしかできない 吉田:「グルメもの×猫」って、最終兵器×最終兵器ですよね。でも、企画を出したときは「おかゆで続くわけない」って編集長にも反対されました。そこをあえてやるのがギャグ漫画じゃないかって押し切ったんですけど……取材は本当にイヤでしたね(笑)。 江口:これって全部作ってるんですか? 吉田:7割以上は作りました。ビールのおかゆとコーヒーのおかゆは本当にお勧めできません。 江口:レシピものとしても完成されていますよね。ギャグのおかゆにしようと思えばいくらでも変なおかゆって作れちゃうけど、それをしないでちゃんと食べれるレシピになってる。
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吉田氏が推す江口作品とは?
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走れ!みかんのかわ

走らなきゃならないときはみかんの皮も走る!あるものを追いかけて走るみかん。リンゴやバナナ、馬などと遭遇し、最後に出会ったのは…?心温まる冒険ストーリー。

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