更新日:2021年05月06日 15:04
エンタメ

吉田戦車×江口寿史 対談――“YouTubeの猫動画にはかなわない時代”にギャグ漫画家が挑戦した絵本とは?

のびのびとしたギャグのなかのいかがわしさがたまらなかった(吉田)

――吉田さんが好きな江口作品は? 吉田:僕は、コンタロウ(『1・2のアッホ!!』)さんがきっかけでジャンプを買い始めたんですけど、それで、中2のときに『すすめ!!パイレーツ』に出会って、夢中で読みました。『パイレーツ』も好きだけど、『ひばりくん』(『ストップ!!ひばりくん!』)は、いま読んでも、のびのびとしたギャグ漫画だなあって思います。いまだったら自主規制してしまうようなネタも、時代的に許されていましたよね。
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『ストップ!! ひばりくん! コンプリート・エディション』(江口寿史/小学館クリエイティブ)2巻p62より

江口:のどかな時代でしたよね。 吉田:のびのびとしたギャグのなかの、ちょっと山上たつひこさん的ないかがわしさ、いやらしさも、高校生としてはたまらなかったんです。強烈な脇キャラがいつつ、ひばりくんが主人公としてブレないのも素晴らしいですよね。自分は女の人が好きなんですけど、ひばりくんならいける!って今でも思います(笑)。いかがわしいという意味では、アクションゼロで連載していた『まんが道』(藤子不二雄A)のパロディ、『ドギワ荘の青春』も……。 江口:とんでもなく下品で……。いや、僕はとんでもなく『まんが道』のファンなんですけどね。単行本のあとがきでフォローしまくりですが(笑)。『ドギワ荘の青春』だけで一冊にして、藤子不二雄A先生に帯を書いてもらうのが夢です。テラさん(漫画家・寺田ヒロオ。『まんが道』の舞台となったトキワ荘のリーダー的存在)も大好き。 吉田:オリジナルのテラさんは人格者なんだけど……。 江口:だからこそひどく描きたくなっちゃって。聖人君子をひどく描いたり、ヤクザをお笑いにして描くのって楽しいんですよね。 吉田:文春漫画賞を受賞した『爆発ディナーショー』のなかでは、プッチンプリンの風呂に入る「トーマス兄弟」が一番好きです。妻の伊藤(理佐)も当時江口さんと同じ雑誌で描いていたんだけど、伊藤のお父さんが、雑誌を読んで「あのプッチンプリンの漫画、おもしろかったなー!」て褒めていたらしくて。「いや、確かにおもしろいけど、お父さんあたしの漫画の感想は?」って思ったそうです。プリンの質感がすごいんですよね。やっぱり『ひばりくん』後期からの絵のクオリティはすさまじいものがあります。
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『江口寿史の爆発ディナーショー』(江口寿史/双葉社)p48より

江口:まあ、全部自分で描いたわけではないんですが、実際手に乗せてみて質感を確かめたりはしていました。 吉田:振り返ってみると、江口さんのいろんな作品からギャグの影響は受けているんだなと改めて思いました。

YouTubeの猫動画にかなわない時代(吉田)

――いまは「ギャグ漫画家」というカテゴライズもあまりされなくなってきましたが、お二人がギャグ漫画家を目指した理由は? 江口:ぼくらのころは、まだ明確に「ギャグ漫画」というジャンルがあって、それがすごくかっこよかったんですよね。いまは「ギャグ漫画」という呼ばれ方はあんまりしないよね。吉田戦車の時代が最後の「ギャグ漫画家」だったんじゃないかな。いまの吉田さんは、ギャグもあり、そうでないものも描き、それこそ今回のような絵本も描き、「ギャグ漫画家」って意識はあまりないんじゃない? 吉田:そうありたいとは思ってるんですけどね。僕から見ると、江口さんは常にストーリーをにらんでいるなって印象でした。僕はずっと漫画が好きで、思春期のころに江口寿史、高橋留美子に出会った。その影響で、ギャグというかコメディというかをやりたいなって思っていろんな仕事してるうちに、4コマとかの短い仕事をもらうようになって、いつのまにか今に至っているような気がします。 江口:まじめにやると照れる性質だからっていうのもありますよね。完全なストーリーものはできなくて、どこかでハズしちゃう。感動させるのって、自分をさらけ出す作業だから、恥ずかしがっちゃって我々にはできないのかも。 ――ギャグを表現するなかで一番楽しい瞬間は? 江口:『伝染るんです。』のときは、楽しくて仕方なかったんじゃないですか? 面白いギャグ描いてる時って、悪巧みしてるような感じしない?この漫画が世に出たらみんなびっくりするだろうな、ウヒヒ!って。 吉田:『美味しんぼ』とかメインの作品があって、すみっこでなんか変なことをやっているという。 江口:そして、雑誌の中で確実にその関係が逆転した瞬間があったように思います。自分が楽しんで描いてて、それがウケた瞬間はやっぱり快感ですよね。 吉田:ウケたときは楽しいけど、ウケ続けるのは苦しいですよね。手を変え品を変えやっていくしかない。 江口:どんどん若い感性が下から出てくるしね。 吉田:いま、もうYouTubeの猫動画にかなわないじゃないですか。写真とか現実の面白さを簡単に抽出できて、それが漫画より面白かったりする。時代が変わってきたんだなって感じます。 江口:とはいえ、吉田さんは目線というか、ものの見方自体が独自だから、吉田戦車の世界は、吉田さんが生きている限りは絶対にすたれないと思う。 吉田:ありがとうございます。僕は、この2~3年、江口さんが読者の人たちをイベントでスケッチし続けているのがとてもうれしいんですよね。もちろん江口さんの漫画は読みたいけど、でもいま僕が「ちゃんと漫画描いてくださいよ!」と言おうとは思わない。絵を描く道、漫画もいろいろだなって。絵を描くことを楽しんでる感じは、背中を見ていて心強いから。だってもう、背景の線を見ただけで「江口寿史の線だ」ってわかるとこまできてるわけじゃないですか。 江口:でも、最近は、ようやくちゃんと「歳」って考えるようになりました。もう、手塚先生が亡くなった年齢を超えてしまったんですよね。時間は有限だから。がんばらないとなあ。 ●江口寿史 56年、熊本県生まれ。漫画家、イラストレーター。代表作に『ストップ!!ひばりくん!』『すすめ!!パイレーツ』など。92年に『江口寿史の爆発ディナーショー』で第38回文藝春秋漫画賞受賞。自身の日記をまとめた『江口寿史の正直日記』(河出文庫)、画業の集大成である画集『KING OF POP 江口寿史 全イラストレーション集』(玄光社)が発売中 ●吉田戦車 63年、岩手県生まれ。漫画家。85年、成人向けグラビア雑誌でデビュー。代表作に『伝染るんです。』『殴るぞ』『ぷりぷり県』『まんが親』『おかゆネコ』(すべて小学館)など多数。90年代以降の不条理ギャグ漫画というジャンルを確立した。発売中の『走れ!みかんのかわ』(河出書房新社)は、『あかちゃん もってる』(河出書房新社)に続く2作目の絵本となる。7月より週刊ビックコミックスピリッツにて『忍風! 肉とめし』、ビックコミックオリジナルにて『出かけ親』を連載開始 (取材・文/牧野早菜生)
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走らなきゃならないときはみかんの皮も走る!あるものを追いかけて走るみかん。リンゴやバナナ、馬などと遭遇し、最後に出会ったのは…?心温まる冒険ストーリー。

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