“三沢イズム”が色濃く残る中で――中嶋勝彦はノアとどう向き合っているのか【最強レスラー数珠つなぎvol.12】
――どんなレスラーになりたいですか。
中嶋:痛みを伝えられるレスラーになりたいですね。肉体的な痛みもそうですし、精神的な痛みも。僕が一番、プロレスって素晴らしいなと思うのは、痛みを人に伝えられるところなんです。いろんな挫折を表現できたり、耐えて耐えて、返していく過程も表現できる。大人ももちろんなんですけど、僕は本当に、子供たちに見てもらいたいなと思ってます。いじめのニュースが多いじゃないですか。僕もいじめられた経験があるんですけど。
中嶋:殴ったら殴った手は痛いし、殴られたほうも痛いというのを伝えたい。やる側の痛みと、やられる側の痛み。両方をプロレスは表現できると思うんですよ。殴ることで痛みを知るというか。そういう気持ちを理解してもらえるような試合ができたらいいなと思いますし、それを伝えるために、自分たちももっとプレイヤーとして、リングからできることってあるんじゃないかなと思ってます。
――この連載では「強さとはなにか」を探っているのですが、中嶋選手にとって、強さとはなんですか。
中嶋:痛みの数だと思います。僕は子供の頃から、痛み続けているんですよね。貧乏だったので、周りの目もありました。雨が降ると、みんな車で道場に行くのに、僕だけ自転車で。台風の日も、ビショビショになりながら自転車こいで。そういう痛みも、殴られたときの痛みも、挫折したときの痛みも、越えられたときって強くなれるじゃないですか。それが僕は強さだと思います。プロレスラーに限らず、どんな人でも。
――では、次の最強レスラーを指名していただけますか。
中嶋:最強と言えば、初代タイガーマスク。佐山サトルさんですね。どう考えても最強ですよ。理由はないです。生きるレジェンドです。僕はデビュー4戦目で、後楽園ホールでシングルをやらせていただきました。入場のときにトップロープを飛んで、本当にカッコよかったです。
――ありがとうございました。
中嶋に向かって「なんでよけるかなあ!」という野次が飛んだとき、私は数か月前、「プロレスを分かってねえな」と非難されたことを思い出した。強いレスラーばかり取材して、プロレスのなんたるかを分かっていない――。言い返せない自分が悔しかった。この連載を辞めたくなった。そんな自分と中嶋を重ね合わせて、どこかホッとしていた。
しかし、中嶋と私は違った。中嶋は、なに一つよけてはいない。貧しかった子供の頃から、チャンピオンになった今に至るまで、なに一つ。たった一人に非難されたくらいで逃げ出したくなるような私とは、違うのだ。強くて、カッコよくて、尊い、プロレスラーなのだ。
これからも、私は強いレスラーを取材する。プロレスとはなにか、強さとはなにかが分かるまで、よけずに記事を書いていく。それがきっと、私にとって、強いということだから。
【PROFILE】中嶋勝彦(なかじま・かつひこ)
プロレスリング・ノア所属。’88年3月11日、福岡県福岡市生まれ。小学校3年生から空手を始め、中学1年生のとき、極真会館松井派主催の全国大会で優勝する。2002年12月、WJプロレスにスカウトされ、入団。2004年1月、対石井智宏戦でプロレスデビュー。同年4月、WJプロレス崩壊に伴い、退団。同年4月、健介オフィスに入団する。全日本プロレス、ノア、ZERO1-MAXなど、様々な団体に参戦し、タイトルを多く獲得。2015年7月、健介オフィスを退団し、フリーランスに。2016年1月、主戦場にしていたノアに入団。20016年10月23日、横浜文化体育館で杉浦貴の保持するGHCヘビー級王座に勝利し、ベルトを獲得。現在、V6。Twitter:@noah_katsuhiko
<取材・文/尾崎ムギ子 撮影/安井信介>
尾崎ムギ子/ライター、編集者。リクルート、編集プロダクションを経て、フリー。2015年1月、“飯伏幸太vsヨシヒコ戦”の動画をきっかけにプロレスにのめり込む。初代タイガーマスクこと佐山サトルを応援する「佐山女子会(@sayama_joshi)」発起人。Twitter:@ozaki_mugiko
■プロレスリング・ノア Summer Navig. 2017 ~第11回グローバル・ジュニア・ヘビー級タッグリーグ戦~
http://www.noah.co.jp/news_detail.php?news_id=10053
【開催日】7月27日(木)
【開場時間】18時15分
【開始時間】19時
【会場】後楽園ホール
■プロレスリング・ノア DEPARTURE2017
http://www.noah.co.jp/news_detail.php?news_id=10076
【開催日】8月6日(日)
【開場時間】11時15分
【開始時間】12時
【会場】後楽園ホール
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