まるでZ型の「三遠南信道」はなぜ遠回りしてまで難所を通ることになったのか?
―[道路交通ジャーナリスト清水草一]―
“酷道”152号線に沿って、三遠南信自動車道の一部開通区間・矢筈トンネルと喬木(たかぎ)インターの異空間ぶりを前回お伝えしたが、そこから南、国道152号線の道路整備状況は良好だ。酷道どころか気持ちのいい快走路となる。
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というのも、この区間は三遠南信道を新たに建設せず、「現道(国道152号線)を改良し活用することで早期ネットワーク完成を目指す」とされたからだ。幅員が狭隘だった区間には、バイパスが完成している。交通量を考えると、全線開通後もこれで十分。賢明な判断だ。この地域は”遠山郷”と呼ばれ、「下栗の里」などの観光資源も少なくない。「道の駅遠山郷」には日帰り温泉などの施設も充実しており、のんびりした風情に癒される。
“酷道”は青崩峠が近づくと復活する。なにせ国道自体が途切れており、その区間は兵越(ひょうごえ)林道へ迂回しなくてはならない。
兵越峠は、かつて武田信玄が最後の上洛を目指した際に越えた峠だが、そのあまりの険しさに、「なぜわざわざこんなところを?」と思わざるを得ない。信玄には本当に上洛の意思があったのか。単に浜松城など家康の本拠を脅かすことが目的だったのでは?など、高速道路とは関係ない歴史のほうに思いが飛んでしまう。
この兵越峠のてっぺんでは、毎年10月の第4日曜日、遠州軍対信州軍による「峠の国盗り綱引き合戦」が行われている。勝ったほうが1m国境を広げられるというルールだ。
さて、この青崩峠付近だが、三遠南信道の本来の計画では、兵越峠直下付近にトンネルを建設する予定だった。そのため、静岡県側には、23年前に高速道路規格で「草木トンネル」が完成し、長野県側の矢筈トンネル&喬木インター同様の「山奥の異空間」を現出させた。
しかしこの付近は、日本列島を貫く大断層・中央構造線直上。兵越峠直下はあまりにも地盤が悪いことが判明し、2008年にルート変更が決定。青崩峠の西寄りが比較的地盤がいいことから、こちらに青崩トンネルを掘削することになり、草木トンネルは一般道(国道152号線)に格下げされた。
現在は青崩トンネルの調査抗が掘削中で、我々が兵越峠に差し掛かった際は、ダンプカーが5台連なって降りてきたところだった。ダンプどころか乗用車すらすれ違い困難なこの道を、ダンプで土砂を運ばなくてはならない難工事。完成は何年後になるのか、少し気が遠くなる。
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1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。『そのフェラーリください!!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高速の謎』『高速道路の謎』などの著作で道路交通ジャーナリストとしても活動中
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