大きさは2倍、毒の量は10倍…スズメバチより凶暴なオオスズメバチが都市部で増加中
毎年秋を迎えると、スズメバチによる刺傷事故が連日のように報道される。人的被害を出す生き物として被害数が圧倒的に多いのは、実はこの小さな昆虫なのだ。スズメバチ被害の実態を専門家3人に聞いた。
9月11日、愛媛県大洲市で車椅子に乗っていた老婆がスズメバチに約50分間にわたって襲われ、全身150か所を刺されて死亡する悲惨な事故が起きた。救急隊員が駆けつけた頃には、ハチの大群が被害者の周りを取り囲み、接近不能だったという。
9月から11月にかけて、日本各地でスズメバチによる被害が発生しており、毎年20人ほどが命を落としている。人間と比べればはるかに小さなハチが、どうやって人を殺すのか。スズメバチ研究の第一人者である、玉川大学農学部教授の小野正人氏に話を聞いた。
「スズメバチが針から注入する毒液には、タンパク質を分解する酵素、激痛を引き起こす成分が含まれています。これを何度か刺されるうち、人体には毒に対する抗体ができます。その状態で刺されると、ハチ毒の急性アレルギー反応のひとつであるアナフィラキシーショックを発症して、血圧の低下や呼吸困難に陥り、最悪、死に至る場合もあります」
秋に刺傷被害が集中するのは、スズメバチのライフサイクルと密接に関わっているという。
「スズメバチの巣では大量の新女王バチが育てられており、その栄養を支える働きバチの個体数と活動量は、秋が深まる頃にピークを迎えます。9月になれば大きな巣では1000匹を超えます。それが活発に餌獲りに出かけるようになりますし、外敵からの攻撃に対して警戒を強めるようにもなります。この時期は人間も活動的になる行楽シーズンですから、両者が接触する機会が増えてしまうのです」(小野氏)
山や森林ではオオスズメバチ、都市部ではキイロスズメバチによる被害が一般的だ。だが、近年ではこうした構図に変化が起きている。今までめったに現れることがなかった都市部にオオスズメバチが進出してきているのだ。
スズメバチ駆除業を手がけている松丸雅一氏も、「20年前は、オオスズメバチの案件は全体の1%以下だったが、今は10%を超えている」と語る。この背景を小野氏は食物連鎖の観点から分析する。
「’80年代のバブル期から始まった都市開発が大きな要因と思われます。オオスズメバチの餌にもなるキイロスズメバチやコガタスズメバチ、アシナガバチが都市化に順応。家の軒下や屋根裏に巣を作るようになりました。オオスズメバチは獲物を追いかけるように、都市部に定着したのでしょう」
マスメディアがスズメバチ被害を報じる際、すべて一緒くたに扱っているが、実は大きな違いがある。まずはその平均的な大きさだ。オオスズメバチ5cmと大きく、コガタスズメバチはその約半分の2.5cm。小野氏によれば、日本には7種類のスズメバチが生息し、その頂点にオオスズメバチがいるのだ。
だが、オオスズメバチは樹木の根元や地中などの閉鎖空間に巣を作る性質上、本来なら都市は住みにくい場所だ。ところが、現在社会問題化している空き家が、彼らに住まいを提供しているという。
「日本の家屋には屋根裏、床下など空間が多く、放置された家具や廃材が積まれてできた空洞など、巣を作りやすい環境ができてしまったのです。しかも空き家だと人の目が行き届かないため、安全に巣を大きくしていけます」
かくしてオオスズメバチは都市部でも密かに定着する傾向にある。9月には東京・芝公園内で子供を含む11人が土中の巣を刺激してスズメバチに刺されたと報じられたが、このハチはオオスズメバチとされる。松丸氏によればその攻撃力は凄まじく、大人でも身動きが取れなくなるほどだという。
「オオスズメバチを焼酎に漬けると、毒液が滲み出しますが、小型のスズメバチと比べると量が10倍は違います。さらに刺されるだけでなく噛まれると、これがまた痛い。尖った鉛筆の先で両側から刺されたような鋭い痛みがあります」
これでは、見つけ次第駆除しなければ、人間は枕を高くして眠れないではないか。だが、小野氏はそのような考え方をたしなめる。
「歴史的に見れば、人間はしばしばハチノコを貴重なタンパク源としてきました。スズメバチにとっての人間とは、幼虫を食べに来る危険な天敵にほかなりません。本来スズメバチは敵から襲われたと認識しない限り、自分からは攻撃せず、平穏無事に過ごすことを望む昆虫なんです。その上、樹木や農作物の害虫を食べてくれる『緑のパトロール隊』と呼べるような働きをしてくれるんです」
松丸氏も小野氏と同様に、行きすぎたスズメバチ駆除に対して、警鐘を鳴らす。
この秋は[殺人蜂]に警戒せよ! オオスズメバチが街にやってきた
空き家の増加で都市に順応したオオスズメバチ
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