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『不死身の特攻兵』の記事が広告だけで炎上…読まずに叩く人たち<鴻上尚史>

右だろうが左だろうが

 だからこそ、普段、僕に好意的でない人達が読む雑誌でも紹介して欲しいと思いました。他の特集が戦争賛美だとしても、それは雑誌の編集権であり、僕がどうこうできることではありません。ただ、僕は自分の本の紹介の文章だけは校正しました。  ですが、新聞広告が出た段階で、雑誌を読まないまま、数々のツイートが炸裂しました。以下、代表的なものを紹介します。 「全く、口あんぐりですね。鴻上(尚史)氏がとうとう“国策協力文豪”になり始めている点も、要注意ですね」 「しかし鴻上尚史終わってる。自分の仕事がパッとしないからといって安易にビジウヨに手を出すのは、闇金を利用するのと同じでは?」 「鴻上尚史はこんなこと言ってるのか。太鼓持ち演芸家だな」 「鴻上尚史はBSか何かで、ニッポンスゴイ系番組の司会もやってたしな。どこか甘いんだよな」  まあ、炎上に少し耐性がつきましたが、それでも、悲しい気持ちにはなりますね。それは、「右だろうが左だろうが、レッテルを貼る人は同じなんだ」という事実を突きつけられるからです。  もちろん、中には知性を感じるツイートもあります。 「本誌で確認しましたが、鴻上さんのところでは末尾近くで『理不尽な命令を出した人間が罪を問われず、その命令を受けた現場の人間が最も苦しむことは、現在も続く日本社会の宿痾である』と指摘されていました。その他はすごく遊就館っぽい」  何が知性かというと、もちろん、本誌を手に取ったということです。新聞広告で「!」と思い、鴻上に反感を抱きながら、それでもちゃんと本誌を確認する。こういう人なら、右でも左でも、僕は議論もできるし、何かで歩み寄れると思います。  どんな内容であれ、あの雑誌に出ることが許せないと言われてしまえば、相手の言い分ではなく存在そのものが敵になります。行き着く先はかつての新左翼が歩んだ殲滅戦、つまり殺し合いの道です。  ネット社会になって、人は読みたい文章だけを読んで一生を終えられるようになりました。そんな時代に、どうやって「放っていたら読まない人達」に届けるかというのは、重要な戦略だと僕は思っているのです。
ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)

『週刊SPA!』(扶桑社)好評連載コラムの待望の単行本化 第19弾!2018年1月2・9日合併号〜2020年5月26日号まで、全96本。
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この世界はあなたが思うよりはるかに広い

本連載をまとめた「ドン・キホーテのピアス」第17巻。鴻上による、この国のゆるやかな、でも確実な変化の記録

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