eスポーツがオリンピック正式種目になれないこれだけの理由
木曽崇:かたやオリンピック委員会も、オリンピック競技の放送権を販売するという、基本的には版権ビジネスです。パブリックコンテンツのスポーツを扱っているうちは、自分たちの競技大会のコンテンツとして販売するのは全然問題ないですが、そこにeスポーツが入ってくると、そこだけが他社の著作物になってしまう。そうすると各ゲームメーカーは権利主張を当然してきますから、今までのオリンピックのビジネスモデルには合わないんです。
POKKA吉田:IOCの側でゲームソフト会社に発注をかけてソフトを作らせて、著作権ごと買い取ったゲームで競技をやればクリアできるけど……。
木曽崇:知的財産の問題を回避するにはそういうことです。ただ、果たしてそんなゲームが面白いのかっていう話ですよね(笑)。そもそもeスポーツの推進をしている人たちは、自社によるゲームコンテンツを世に売るためのいち手法としてeスポーツの普及をしているわけです。にもかかわらず、パブリックコンテンツのゲームを開発しなさいなんて言われても、それうちのゲームじゃねぇじゃんっていう話にしかならない。誰もまともにやらないでしょう。
POKKA吉田:そうすると、いまジャカルタでやってるアジア競技大会は、見切り発車ということなのかな?
木曽崇:今回は正式競技とは違って参考競技として扱われるし、放送枠に乗らない別枠の位置付けなんですよ、結局。だから今回はなんとかなったんですけど、それでも相当にモメましたからね。
POKKA吉田:そしたらeスポーツは、ずっと賑やかしのエキシビジョンでいく! これしかない! オリンピックもパラリンピックも、eスポーツはエキシビジョンということで。
木曽崇:今回、2022年の杭州アジア競技大会におけるeスポーツの扱いが急に変わったのも、背景にその辺の事情が深く関係しているんじゃないかなと思うんですよね。
POKKA吉田:正式種目ってことは、ビジネスモデルが確立されてないとまずいわけだよね。
木曽崇:そもそも次回以降の大会の競技種目はまだ決まってません。今回のジャカルタ大会は決まってるけど、次にそれが引き継がれるかはわからないです。最近でいうとFPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)の世界では、1年単位で主要なタイトルがころころ変わっていってるので、そんな状況の中で4年に1回しか開催されないオリンピックとeスポーツのタイトルの変遷っていうのがそもそも合わないんですよね。
POKKA吉田:今年のアジア競技大会に、ウイイレの種目で出場した選手は、次回もしウイイレが競技種目から外れたらどうするわけ?
木曽崇:これも大きな問題のひとつなんですが、スポーツって、サッカーをやる人はずっとサッカー競技をやってますよね。今年の代表に選ばれなかった人、もしくは負けちゃった人は、4年後を目指して頑張るわけです。だけどeスポーツは、そのときの流行り廃りで常にタイトルが揺れ動く。つまり今年の代表選手は、来年自分たちが今コミットしてるタイトル・ゲーム競技が採用されるかどうかわからないんですよ。4年後にそれが選ばれる保証はいっさいない。
POKKA吉田:それもおかしな話じゃないの? いくら今年世界記録出したとしても、4年後の大会だと別のゲームをやるんだったら、記録の価値や普遍性がなくなってしまう。例えば100メートル走だったら、10秒の壁があってそこを目指してみんな頑張っとるけど、そういう基準がないわけでしょ。ボルトが1番速くて、桐生君が日本で1番速いっていうのは、普遍的なものだもんね。
木曽崇:その点については、ずっと伝統的に存在しているゲームであるマインドスポーツは、全然問題はない。パブリックコンテンツとして同一ですからね。eスポーツには、オリンピックが扱っているスポーツ競技と、マッチしない部分がマインドスポーツ以上にあるということなんです。
eスポーツが目指すべきはオリンピックよりもW杯構想
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