更新日:2018年09月28日 15:30
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大坂なおみの帰国記者会見、恥ずかしい質問にジリジリした――鴻上尚史

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「私は私である」は素敵で完璧な返答

 これね、共通の価値観の存在を前提にした質問なんですよ。日本人とだけしか仕事してないと、これがどうして翻訳困難なのか、気付かないと思います。  だって、「海外」とはどこのことなのか? 「古い日本人像」とはなんのことなのか? 「報道されている」とは、どこが報道しているのか? 「その辺」とはどの辺なのか?  すべて、日本語に特有のあいまいな表現のままです。日本語で日本人仲間に向かって話せば、なんとなく、ニュアンスは伝わるかもしれません。けれど、英語に翻訳しようとした時には、つまづくのです。  予想通り、大坂さんも戸惑い、「私は古い日本人像ってこと?」「それはテニスに関して?」と逆質問していました。  そして、「まず、私は自分のアイデンティティについて深く考えません。私は私である、としか思っていないところが多いです。私が育てられてきたように生きてきた」という言葉を返します。 「私は私である」は、本当に素敵な言葉です。「あなたは何人なの?」と好奇の目で問いかける人に対する完璧な返答です。  日本人と日本人以外の人を両親に持つ子供は昔、あきらかに差別的なニュアンスで「混血児」と呼ばれました。そして「ハーフ」という表現が生まれ、やがて、「ダブル」という言葉も生まれました。が、当事者達は、「ハーフ」「ダブル」に関して賛否両論のようです。 「ハーフ」はまるで半分の人間のようだから「ダブル」が良いという意見と、「ダブル」はまるで二つの国の価値や文化両方を備えていたり知っているようなプレッシャーを感じるから嫌だという否定意見が、当事者達の間にあるようです。 「日本は単一民族」と思い込んでいる人々の間で生きるのは大変だなあと思います。  わざわざ、こういう言葉を言う必要がないぐらい多様な状況になることが理想なんじゃないかと思います。そうすると、テニスの優勝会見でアイデンティティーの質問がでない国になるんじゃないかと思うのです。
ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)

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この世界はあなたが思うよりはるかに広い

本連載をまとめた「ドン・キホーテのピアス」第17巻。鴻上による、この国のゆるやかな、でも確実な変化の記録

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