路上ナンパ男と交際してしまう女性の胸中…27歳OLの場合
いなくなればどっと寂しさが襲ってきた。だがしばらく連絡を取っていなかった友達に会い、美術館に足を運び、休みの日には寝たいだけ寝て食べたいものを食べる、という生活を続けながら、カナはひとりの暮らしに慣れようとした。
数か月後、トイレで用を足しているときにタカシから電話がかかってきた。カナの夢を見て、どうしても話したくなったのだと。片手にティッシュペーパーを巻きつけたまま、カナは応じた。
来月、結婚するのだとタカシは切りだした。カナと出会うずっと前から、その相手とは一緒に暮らしているのだとも。
全てに納得がいった気がした。家に上げてくれなかったこと、外では会おうとせず、友達を紹介してくれることもなく、将来の話を一切してこなかったこと。
タカシは泣いていた。カナは笑ってしまった。
嘘の上塗りを重ねて築かれた、嘘にまみれた関係だった。別れ話をするたびに泣いていたのはカナのほうだったが、いまや夢の中にいるかのよう。彼女さんのことを思うとかわいそうだから、大事にしてあげてほしいという言葉が出たのはそのためだ。
「彼女さんと自分を大事にして、いままで私に向けていた優しさを全部、彼女さんに向けてあげて」
「彼女さんひとりとだけ、何でも話しあって。そうすれば寂しくなくなるから。浮気とかしなくて済むよ」
「あなたは他人のマイナスな感情を引き受けすぎなの。いつも辛そうだった。それやめたほうがいいよ。これからは彼女さんと自分と、引き受けるのはふたりぶんだけの感情にしてね」
もう二度と話すこともないだろうと思うと、タカシのことだけを思う言葉が口から溢れる。幸せになってほしいと心から願った。
ありがとうと、タカシは繰り返し、受話器越しに泣き続ける。バカな男だとカナは思った。本当に時間を無駄にした。それでもタカシはナンパをやめないんだろうな。<TEXT/仙田学>
別れたはずのタカシから再び電話が…
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