更新日:2021年09月10日 11:25
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男は本物を求める生き物なのだ。それはSEXでさえも――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第20話>

 昭和は過ぎ、平成も終わりゆくこの頃。かつて権勢を誇った“おっさん”は、もういない。かといって、エアポートで自撮りを投稿したり、ちょっと気持ちを込めて長いLINEを送ったり、港区ではしゃぐことも許されない。おっさんであること自体が、逃れられない咎なのか。おっさんは一体、何回死ぬべきなのか——伝説のテキストサイト管理人patoが、その狂気の筆致と異端の文才で綴る連載、スタート! patoの「おっさんは二度死ぬ」【第20話】中出しビーストと黒いセックス守護神の誕生 “本物”であることは、多くの男にとって最重要事項だ。 そこまで自分に関係ない事象であっても、どうでもいい事象であっても、男ってやつはやけに“本物”にこだわる。偽物を良しとせず、とにかく本物だけを追い求める。男とはそういう生き物、今日はそんな“本物”にまつわるお話だ。 とあるサイトに、途方もないレビュアーが存在していた。そこまでやらなくともと誰もが思った。それでも彼は心の底から“本物”を望み、行動した。誰からも称賛されなくとも、見返りが貰えなくとも、彼はただ“本物”を求め続けた。 彼が望んだ本物とは「中出し」だった。 この世には多くのエロDVDが存在する。 綺麗な女優さんが出てきて優雅に絡むものもあれば、目を覆いたくなるほどハードコアな内容のものもある。壁から出ている8本の生殖器を実際にはめてみてどれが彼氏のものか当てるような、何を食って育ったらそんな発想に至るのか理解不能な企画物もあったりして、その内容はピンキリだ。 その中である程度の人気を誇る「中出し」というジャンルがある。単純に言うと、男女の営みの果ての射精を女性器の中で行うというものだ。避妊具も使わず、ドワッと女性器の中に出す、それが売りのエロDVDだ。 ただし、そういった「中出し」は多くのリスクを伴う。病気や妊娠というリスクももちろんだが、尊厳という部分もあるだろう。超えてはいけない最後の一線として存在している。 そういったリスクや尊厳をものともせず中出し行為をすることに興奮するという側面もあるが、多くの女優や監督、メーカーはそこまでのリスクを採らない。できれば中出しをせずに中出し物を撮りたいと考えるのだ。そこで登場するのが「疑似中出し」という概念だ。 つまり、実際には中出しは行っていないが、行っている風に撮影するという手法だ。この辺りは日本国内で流通するエロDVDは全てにモザイクがあるという点を利用して上手に撮影する場合がほとんどだ。 ああ! と男優が女優の中で果てるシーンを撮影するが、実際には射精に至ってない。そして、一見すると精液に見える疑似精液まで調合し、ドロッと女性器から出てくるシーンだけを別に撮影するのだ。 つまり、「中出し」を謳う多くのエロDVDが「疑似中出し」であることは半ば既定路線であり、多くの人が心のどこかでそれを分かっていたりしつつ、それでも鑑賞して興奮するのだが、ごくまれに、それを許せない男がいたりする。 その男はレビュアーだった。 エロDVDをネット販売するサイトに常駐し、徹底的にエロDVDをレビューしている男だった。アマゾンなどのレビューと同じように、作品に対して星の数で評価し、寸評を述べる。 ユーザーはそれを参考に購入するというスタイルだ。彼はそこにレビューを書きまくるいっぱしのレビュアーだった。 ただし、普通のエロDVDは一切レビューしない。そう、徹底的に「中出し」を謳っている作品ばかりを狙ってレビューしていたのだ。そのレビュー数は250本近く。中出し物ばかり。何が彼をそうさせるのか業界が騒然となったほどだった。 彼の疑似中出しに対する怒りは凄まじい。とある中出し物の作品についた彼のレビューの一部を意訳しつつ引用してみようと思う。 「パッケージで『中出し』と煽りまくっているが、真っ赤な嘘。明らかに擬似中出しで、ところどころゴムが見えているほどです。こういった偽りの中出しは今後一切やめていただきたい」 まず彼の中で重要なのが、絡みにおける避妊具の有無だ。疑似中出しをする場合は、ばれないようにこっそりと避妊具が装備されている。もちろん、中出しの場合はそれがないわけだ。つまり避妊具の存在が確認できればそれはもう疑似中出しなのである。 ただ、多くの場合は避妊具が登場してくる部分は深いモザイクの向こう側なわけである。撮影側が隠す気さえあれば、男性器の色に近い避妊具などを用いればばれにくい。けれども、それすらせず、ショッキングピンクの避妊具を使ってゴム丸見えという矜持のなさに彼は怒っているのだ。騙すなら騙す努力をしろということだろうか。 しかし、あまりに氾濫する疑似中出しに彼は失笑の域に達してしまう。とある作品についたレビューはこうだ。 「コンドーム見えてます(笑)。相変わらずの疑似中出しに萎えてしまう」 あまりにあからさまな疑似中出しに諦めに似た感情が沸いており、笑うしかない状態だと分かる。(笑)に彼の深い悲しみの感情が込められていると理解できる。人は怒りを通り越すと笑えてくるのだ。 「また疑似中出しですか。もういいかげんにしてもらいたい。普通に発射するという当たり前のことがなぜできないのだろう」 このレビューなどはもう哲学の域に達していると思う。そうなのだ。普通に発射するという当たり前のこと、それがなぜできないか、みんなしてるじゃないか、そういう感情になりつつあるようだ。これは思いのほか深い言葉だ。そう当たり前なのだ。 彼の中出しに対する姿勢はすさまじく、もうプロの域に達している。中にはこんなレビューも登場してくる。 「一瞬、本物の中出しかなと思いましたが、コマ送りしたらゴムが確認できました。疑似中出しです」 コマ送りまでするなよ。
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偽物のセックスを許さない男・吉松さんとの出会い
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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