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泣き虫のおっさんが教えてくれた世の理。それは、オセロの黒の裏が白とは限らないこと――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第25話>

裏の裏は表ではなく、また裏かもしれないのだ

 ただ、向こうの目的が何なのか分からない。ただ会うだけなんてまっぴらごめんだ、絶対にセックスにこぎつけたい、ケリーさんは強くそう思った。そこの部分だけはかなり強気らしい。 「エッチなことしてもいいですか?」  そう送ったそうだ。完全にド直球だ。ド直球すぎてバッターもキャッチャーも審判も戸惑うレベル。普通ならここで返事が来なくなってもおかしくないが、意外にも返事が返ってきた。 「え、いいんですか? 喜んで」  めちゃくちゃエロい女だな、そう思ったらしい。生殖器が服着て携帯電話をポチポチとやってるレベルのエロい女、そう思ったらしい。 「じゃあ会いましょう」 「そうですね」 「いっぱいエロいことしてください」 「喜んで」  そんなやり取りがあって、ついに会う段階になったそうだ。夢見心地だったそうだ。待ち合わせ場所は夜の公園。誰もいないひっそりとした場所だ。ポツンと燈る外灯の下で待ち合わせたそうだ。  ケリーさんはドキドキした。出会い系サイトは出会えない、詐欺ばかり、そんな噂ばかり聞いていた。けれどもあんなにもエロい女をデビュー戦で引き当ててしまった。もしかして自分には才能があるんじゃないだろうか。出会い系サイトの才能があるんじゃないだろうか。  胸がはち切れそうなほどに高鳴り、ついに待ち合わせ場所についた。外灯の下に人影が! エロい女がいる! 急いで近づいた。  おっさんだった。  なんでやねん。  待ってるのはちょっとおしゃれなシャツを着たおっさんだったらしい。  どうもケリーさん、間違えて女性側で出会い系サイトに登録してしまったらしく、相手のおっさんは普通にめちゃくちゃエロい女を捕まえたと喜び勇んでいたらしい。つまり、お互いにめちゃくちゃエロい女を捕まえた、と大興奮で公園に向かったわけだ。おっさんが二人、公園で、股間をパンパンに膨らませて。こんな悲劇があるか。僕はこれ以上の悲劇をいまだ聞いたことがない。 「オセロの裏、黒の裏は白だと思うだろ。でもな、黒の裏が黒だったんだ。あの時は泣いたなあ。かつてないほど泣いた」  ネットワークを介した相手は、そもそも何者なのか分からない。そう言った意味でオセロの裏側が何なのか分からないのだろう。ケリーさんはそう言ってまた泣いた。 「ちなみに2番目に泣いたことってなんすか?」  そうたずねると、ケリーさんはけっこうハキハキと答えた。  出会い系サイトのデビュー戦で失敗したが、2戦目で出会った女がブスで、しかも美人局だったらしい。  事が終わって家路へと着くと、電話がかかってきて、かなりドスの効いた声で「俺の女になにしてくれちゃってんの?」と言われたそうだ。ビビったケリーさんはとっさに子供のふりをして誤魔化そうと「僕は隼人、小学四年生」と言ったが、すぐにばれて泣きながら6万円払うことになったらしい。 「ほんと、出会い系サイトはろくなことがないよ」  そう言ってまた泣くケリーさんを見ながら、とんでもないレベルでどうしようもないおっさんだな、いくらなんでも子供のふりするなんてなんてありえないんじゃないか。そう思った。  何事もオセロのようにはいかないものである。裏の裏は表ではなく、また裏かもしれないのだ。それはきっと世の中の真理なのだ。 【pato】 テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。ブログ「多目的トイレ」 twitter(@pato_numeri) ロゴ/マミヤ狂四郎(@mamiyak46
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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