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個室ビデオ鑑賞店の戦いで、おっさんに完膚なきまでに叩きのめされた僕はーーpatoの「おっさんは二度死ぬ」<第33話>

とにかく早く寝たい。が、DVDはテキトーに選べないというジレンマ

 その日は、やはり宿泊場所がなかった。終電の行ってしまった歓楽街はその熱気が少しだけトーンダウンしていた。  「もしかして逆ナンされてラブホテル行くかも」  そう思って宿泊場所をキープしていなかった僕。もちろんそんなお色気展開はなく、肩をすぼめて酒場をあとにした。  「眠い、とにかく眠い」  早く眠りたいと思った。とりあえずスマホで今から泊まれるビジネスホテルを探したが、1泊2万円とかバカげた値段の場所しかないようだった。カプセルホテルもあたってみたが、もちろん満室、おまけにネットカフェも何軒か回ってみたが、「オープンスペースしかあいていません」という状態だった。あんな予備校の自習室みたいな場所ではとてもじゃないが眠れない。  この街は酒場はが多い。だが、宿泊施設が異様に少ないようだ。こりゃいよいよ野宿か、それともタクシーに乗ってもっと大きな町街に行くべきか、と覚悟して歩いていると、目の前に個室ビデオの看板が見えた。  「助かった」  安堵した。砂漠でオアシスを見つけたかのようだった。個室ビデオレベルの個室なら安眠が約束されているようなものだ。これで眠れると小躍りし、妙に掃除の行き届いた長い階段をあがった。  「いらっしゃいませ!」  やはりめちゃくちゃ元気のいいおっさん店員が大声を張り上げていた。店員さんはその威勢そのままにさらに続けた。  「残り、リクライニングの部屋が1部屋です!」  とんでもないことだ。せっかく見つけた個室ビデオすら満室が近い。ここですらあぶれてしまったら完全に野宿になってしまう。早く部屋を抑えなければならない。気持ちが焦った。  ここで個室ビデオの鉄の掟が登場する。  早く部屋を抑えたいし、もう酒に酔っていて疲れているし、とにかく眠りたい、そんな状態なのでべつにエロDVDを見たい気持ちはないのである。ならば1本もエロビデオを選ばずに部屋だけ貸してくれ、と言いたいところだが、絶対に貸してくれないのだ。  これはおそらく、個室ビデオが「宿泊施設」という位置づけではなく、あくまでも「借りたビデオを個室で見る施設」という立ち位置なのに起因していると思うのだけど、どんな状況であっても必ずエロビデオを1本は選ばなければならない。少なくとも今まで行った個室ビデオは全部そうだった。  普通なら、残り1部屋だ、入店順にその1部屋を奪取する権利がありそうだが、悪いことにこの店には裏口があった。その裏口からサラリーマン風のちょっと小太りのおっさんが僕と同時に入店してきたのである。  これには店員さんも困った。店員さんがどちらが先に入店したかとジャッジすれば、あぶれた方が野宿となるのである。そうなったら怒り出すことは必至だ。さすがの店員さんも威勢の良さを失い戸惑う姿が見られた。  「先に選んだ方が勝ち」  自然とそんな空気を感じ取った。そう、こうなったら先に借りるエロDVDをチョイスし、レジへと到達した者が宿泊する権利を得るのだ。  僕と見ず知らずのおっさんとの戦いの火ぶたが切って落とされた。  「適当にその辺のレジ近くのエロDVDもっていけばいいだろうが」  そう思うかもしれないが、はっきり言って浅はかというしかない。それが簡単にできるなら苦労はしない。僕らはそんな訓練は受けてこなかった。エロいDVDを借りるとなれば適当では済まされない。必ず好みの、最上の、抜ける1本をチョイスしなければいけない。それがエロDVDに対する真摯な態度というものだ。  見ず知らずのおっさんも同じようだった。真剣にバスツアーものの棚を吟味しだした。なるほど、バスツアー派ですか。  バスツアーものは1つの作品に出ている出演女優が多いので吟味するとなると時間がかかる。真剣に選ぶつもりのようだ。やはり同じ訓練を受けている。同様に真摯な態度を見せる好敵手に自然と笑みがこぼれる。  僕は一番大好きな、素人参加物の棚を漁り出した。童貞クンを救ってくださいと声をかけてエロいことをやらせるやつだ。これもまた、裏のパッケージまで吟味しないとどんな女性が出ているのか分からないので吟味に時間がかかる。  好敵手の動きを牽制しながら、最上の童貞クンものを選ぶ。きた、これだ、裏パッケージによると4人目が完全に好みだ。これしかない! その黄金の1本を鷲掴みにし、カゴに叩き入れた。  「よっしゃ! 勝った」
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おっさんの強さはDVD選びだけではなかった
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