更新日:2020年09月10日 15:52
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個室ビデオ鑑賞店の戦いで、おっさんに完膚なきまでに叩きのめされた僕はーーpatoの「おっさんは二度死ぬ」<第33話>

おっさんの強さはDVD選びだけではなかった

 真摯に向き合い、吟味した上で最上のエロDVDを手に入れ、個室まで取れるのだ。完全勝利に近い。  どれどれ、ありゃりゃ、彼はまあだバスツアーもの選んでいるのかなーと完全に勝ち誇って好敵手を見ると、バスツアーものの棚の前にいない。まさか先を越されたか! と焦ったが、普通に人妻ものの棚の前にいた。そして彼のカゴの中を見て驚愕した。 「すでに2本入っている」  もう2本も選んだのか! というチョイススピードに驚いたのはもちろんだが、なぜ2本選び、3本目を選んでいるのか、という点に驚愕した  個室は残り1つ  早くレジに行ったやつが勝つ。そこで適当に選べないまでも、吟味した1本をもっていけばいい。なのにこいつは3本目を選んでやがる。もしかしてこいつ、マックスの5本までいくつもりか!? この差し迫った状況でいくつもりか!? どんな訓練を受けてきているんだ!?  そう、彼は誰よりも真摯で、そして紳士だったのだ。  ここは泊まる場所ではない。エロDVDを見る場所なのだ。エロDVD見るとなれば限界まで借りるだろうが、マックスまでいくだろうが、彼の背中がそう言っているように感じた。  「負けてられねえ」  そう、僕は間違っていた。ここは宿泊する場所ではない。エロDVDを見る場所だ。それならば僕だって限界の5枚まで借りる。ちゃんと、王道の単体女優ものを2本、企画物を2本、普段は見ないジャンルのものに挑戦の1本、いつものこの布陣で臨むはずだ。おうよ、選んでやろうじゃないか。  途中、下半身裸で野球をするというよくわからないエロDVDが並ぶ棚の前で好敵手とすれ違った。  「やるな。まさか俺についてくるやつがいるとはね」  「あんたには負けねえよ」  「笑わせるなよ、青二才」  「あんたと戦えてよかった」  そんな会話は交わさなかったけど、たぶん視線でそういった類の会話をした。  そして決着の時を迎える。  僕が最後の1本の「いままで手を出したことがないジャンル」に悩み、最後の一本は一周回ってアルマゲドンかありじゃねえか、普通に観たいし、と悩んでいる所を5本選び終えた好敵手が悠然とレジに向かったのである。 「ご一緒にアダルトグッズなどはいかでしょうか!?」  元気のいい店員がいつものごとくオナホールを勧める。 「そうだな、じゃあ2個」  何から何まで敵わねえ。そこでオナホールを買うのかよ。強キャラすぎる。そして2本も買うのかよ、と敗北を噛みしめることしかできなかった。  夜の繁華街に放り出された。  終電後の繁華街は戦争だ。  あの「今まで手を出したことがないジャンル」さえスムーズに決まれば勝てたのに。そう悔やみながらネオンを眺めていると、目の前を終電を逃したと思われる肌が小麦色のギャルたちがワイワイとオールだべ、みたいなことを言いながら通り過ぎて行った。  決めきれなかった、未経験ジャンル、今度は「素人参加複数もの、肌が小麦色で高いヒールをはいた女たち」にするか、と決意を新たにした。  繁華街は少しだけ冷たく、ネオンが瞬いていた。 【pato】 テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。ブログ「多目的トイレ」 twitter(@pato_numeri) ロゴ・イラスト/マミヤ狂四郎(@mamiyak46
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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