更新日:2023年03月12日 08:47
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デリヘル嬢との恋路に、立ちはだかった戦国武将――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第34話>

お礼日記には風俗嬢独自の世界が展開されている

 「あいつもたぶん俺のこと好きだな。帰り際にギュッとホテルのロビーで手を握ってきたもん」みたいなことを言っていた。それはたぶんそういう営業戦略ですよ、と言おうと思ったけど、舞い上がっている馬場さんにそんなことは言えなかった。完全に恋するおっさんである。 「それでよ、帰り際にいうわけよ、わたしお店のホームページで日記書いているから見てねって」  これは俗にいう「お礼日記」というやつだ。最近では情報化社会の波が風俗界にも訪れていて、一昔前のようにホームページに女の子の写真を載せて呼んでね、では通用しなくなっている。そこで、増えてきたのがこの「日記」という形式だ。  だいたい、風俗嬢のプロフィールページから「日記」だとか「写メ日記」みたいなリンクが貼られていることが多い。そこでブログ形式で日記が綴られているのだ。ある程度は店の方針が反映されているだろうけど、そこには風俗嬢独自の世界が展開されている。 「今日出勤です。まだまだ空きがあるみたい。お兄さんと遊んでみたいな~、呼んでね」  みたいなストレートな営業日記もあれば、 「今日は友達のミサちゃんとディズニー行ってきました!」  みたいに本当の日記を書く風俗嬢もいる。いずれにせよ、客に訴えかける何かが必要なので、だいたいはややセクシーな自撮りが添えられている。  その中で、もっともスタンダードなのが、「お礼日記」という形式だ。 「今日は本当に楽しかったね。  最初はびっくりしたけど、緊張がほぐれてきて、あとはずっと笑ってたね。  最後フィニッシュできてよかった~、時間なくて焦ったけど……  また呼ぶって言ってくれて嬉しかった。  またね☆彡」  こんな感じのものだ。これはまあ、呼んでくれた客に対するものであり、リピーターとして育てようとする戦略がある。これを読んだ客は、いい子だったな、彼女も喜んでくれたみたい、よし次も呼ぼう、となるのだ。  ただ、それ以外にもこの「お礼日記」は重要な情報を含んでいる。  例えば、これから呼ぼうという未知の女の子の場合、風俗サイトのプロフィールページではよく分からないことがある。「例えるなら超新星爆発です!」とか抽象的なこと書かれても意味わからないし、もっと曖昧なことが書いてあることもある。そもそも嘘しか書いていないことだってある。  ただ、こういった「お礼日記」を読むとわかることがある。  上記の「お礼日記」でも、少なくとも会話が盛り上がった形跡が窺えるので、最低限のコミュニケーションをとれる女の子であることはわかる。  おまけに最後まで頑張ってくれる健気な子で、表面上はビジネスライクでないこともわかる。また呼ぶと、たとえリップサービスであっても客が言うくらいなのだから、そこまで悪い子ではないかもしれない。
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他の客へのお礼日記にいちいち嫉妬する馬場さん
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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