「ギリギリ逃げ切れるはず!」。そんな楽観的な見方をしがちな50代だが、少し目を凝らせば、すぐそこは阿鼻叫喚の地獄絵図。「転職・独立」というフロンティアは、弱肉強食の厳しい世界でもある。会社を飛び出した男たちを待ち受けていた運命とは? その過酷な現実に迫る。
![[負け組50代]の衝撃](/wp-content/uploads/2019/03/DMA-20190212_165740-550x440.jpg)
「FXセミナーに100万円使いました。かなり勉強したので、最近勝てる手応えがあるんです」と意気揚々と語る田中さん
転落してもどこか他人事。バブル世代の悲しい宿命
現在の50代といえば、新卒だった30年前はバブル絶頂期。シビアな境遇に追い込まれない限り、たとえ転落しても楽観的なのがこの世代の特徴だ。
取材を通じても、軽めの左遷、降格、減給程度なら「散々いい思いをしたので、まあ自業自得ですね」(56歳・製造業)、「銀座や六本木で飲み歩いていた頃の思い出を胸に、余生を過ごします」(58歳・広告)と無駄にポジティブな転落50代が少なからずいた。
「5時にはきっちり退社して、趣味の舞台めぐりに励んでいます。退職金を手にするまで、あと5年の辛抱ですよ」(55歳・流通)
こんなお気楽な声を現場の社員が耳にすれば、「呑気なことを言いやがって」と怒りが湧くが、そのポジティブさは危うさと表裏一体だ。象徴的なケースが、田中啓介さん(仮名・56歳・無職)。
「専門学校卒で建築設計事務所に入り、狂ったバブルの時代に20代を過ごしました。当時は図面1枚10万円で先払い。つまり、『1枚書きますよ』と言いさえすれば、口座に10万円振り込まれる“打ち出の小槌”状態です。建築士の資格を持たない若手でも、大手ゼネコンから赤坂で接待三昧。それで調子に乗って30代で独立したらバブル崩壊。5年間は踏ん張りましたが、結局、親に500万円の借金をつくって事務所を畳みました」
それでも手に職があるので、年収500万円ほどの仕事なら今でも不自由しないという。しかし、田中さんの借金は減らず、生活は常に困窮。今では無職にまで転落した。なぜなのか?
「金銭感覚がね……おかしくなったままなんです。競馬に手を出し、FXに手を出し。仕事も長く続かない。それというのも、あの狂乱の20代~30代前半を過ごして、地道に働いてお金を稼ぐという行為の意味を、正直、今でも見失っているのだと思います」
まるで自らをベトナム戦争の帰還兵にでも例えるような言い草だが、一分の理はあるのだろう。不景気のなかで生きてきたバブル以降の世代のほうが、地道に働き続けて人生をまっとうする底力があるのかもしれない。
<取材・文/週刊SPA!編集部>
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