更新日:2023年03月20日 11:15
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「イギリスの飯はマズい」はもはや過去? 外食レベルが上昇した理由

伝統的料理に再注目した「モダン・ブリティッシュ」

 カルッチオ氏のように’60~’70年代にやってきた世代が、ロンドンで世界各国の料理を味わえる土台をまずつくり上げた。 「これは欧州諸国、インドやパキスタン、中東やカリブ諸国、香港などから来た1世、2世たちの努力の賜物でした。その現象は、人材のグローバル交流が活発になった’90年代以降、さらに強まっていったんです。ビジネスチャンスを求め各国からシェフが流入、さらにロンドンを拠点としたレストラン事業家が外国から優秀なシェフを呼びました。もともと国際色豊かだったロンドンの外食産業ではシェフ同士が互いに競い合ってレベルアップし、洗練されてきたロンドンっ子たちの舌に合わせて独自の展開を遂げています」(江國氏)
Roast dinner

日曜日にパブやレストランに行くと、高い確率でメニューに載っているのがビーフやラム、ポークをオーブンで焼いたロースト料理だ。家庭料理でもあり、日曜日のご馳走としてイギリス人に大人気

Dinner London team

中世の宮廷料理からヒントを得た独自の「分子美食学」で一斉を風靡したヘストン・ブルメンタール氏の料理は、マンダリン・オリエンタル・ホテル内にあるミシュラン星付きの「Dinner by Heston Blumenthal」で。シェフ・ディレクターのアシュリー・パルマー・ワッツ氏とともにイギリスでも有数のモダン・ブリティッシュ料理を提供している

 こうしてイギリス人たちは、各国料理をイギリス風にアレンジしつつ、自国の伝統料理も見直し始めていったのだという。 「国内の新鮮な素材を現代的な手法で調理する『モダン・ブリティッシュ』と呼ばれる料理のシェフたちが、フィッシュ&チップス、パイやロースト料理といった伝統料理に外来の調味料などを組み合わせ、食材を生かした調理法に磨きをかけていきました」(同)  イギリス国内最大手の業界専門誌で「ワールド・ベスト50レストラン」を選出する『レストラン』編集長のスティーブン・チョムカ氏はこう分析する。 「イギリスの外食レベルが上がっている理由は、移民の力だけではない。20年前の、優秀なイギリス人シェフたちによる意識的な努力の結果でもある。そこから後続シェフたちが生まれていったのです」
Pub

レストラン・レベルの料理を供するガストロパブは、ロンドンの豊かな食文化を語るうえで絶対に欠かせない要素の一つ。特に住宅街の中に点在する傾向のあるガストロパブの中でも、東ロンドンにある「Marksman」は気軽に利用できる。伝統パブの雰囲気と美味しい料理が融合した、現代のランドマークだ

 現在のロンドンでは、レストランへの期待度はかつてないほど高くなり、老舗といえども気を抜いていては生き残れない。デザイナーでありレストラン事業家として鳴らしたテレンス・コンラン卿のレストランも、最盛期に比べるとその数は減っていく一方だ。
Israel_Honey and Co

モダン・イスラエル料理レストラン「Honey & Co」の料理。現代風にアレンジしたイスラエル料理は今、ロンドンで最も注目されている料理ジャンルの一つだ。Honey & Coは中東風無国籍料理の先駆けとなったカリスマ的なデリカテッセン「オットレンギ」で修業した夫婦デュオによる人気店

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EUを離脱してもイギリス飯はさほど影響を受けない
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