勝ったら1000万企画、辞退の理由は?
──そうなると、5月17日に行われるONEの初防衛戦も重要な意味を持ってきますね。
青木:そうですね。残された時間を考えると、ここからは一つひとつの試合がすべて重要になってきますから。とにかく後悔はしたくないし、目の前のことを全力でこなしていくだけです。
──「那須川天心にボクシングで勝ったら1000万円」を辞退したことが世間で騒がれましたが、その理由は?
青木:「物事をすべてオープンにするのはつまらない」というのが僕の基本的な考え方としてあるんです。世の中にはフィクションだからこそ面白かったり、モザイクがかかっているからこそ興味をひかれることがたくさんあるわけで。そこで全部を公開しちゃうのは違う気がする。これは格闘技とかプロレスだけじゃなく、芸事すべてに共通して言えるんじゃないですかね。
それでも“全部分け隔てなく情報開示しろ!”っていうことなら、受け取る側の裁量の問題としてどうなのかなって話になると思う。たとえばプロレスを観ながらみんなが楽しんでいるときに、「これ、真剣勝負なの?」っていう話が出たら萎えるじゃないですか。たしかにプロレスは事前にケツ(勝敗)が決まっているかもだけど、それを言い出したら会話が成立しないですよ。
──ヤオガチ論では語れない要素がプロレスにはありますからね。企業の不祥事じゃないですから、エンタメには説明責任もないし。
青木:そうそう。世の中全体が「白か黒か、どっちかはっきりしろ!」という方向に傾きすぎているように感じるな。でも、それってつまらないですよ。発想が野暮。
──これまでも廣田瑞人選手と対戦したときの腕折り事件とか、山本元気選手に勝ったあとの挑発行為などで意見が飛び交う中での青木選手自身のメンタルの強さはどこから?
青木:最初のうちは嫌だなって思いました。でも、どれだけ世の中から叩かれようとも、その世の中の声っていうのは簡単にひっくり返るものなんですよ。そのひっくり返る成功体験を一度でもしたら、いちいち叩かれることを気にしなくなる。僕もここまで来るのにいろんなことがありました。そのたびに、いろんな人からいろんなことを言われてきました。
だけど人々の声って、すごく流動的ですから。僕の場合、去年くらいから「調子がいいじゃん。復活した?」とか言われることも多いんです。でも、それはたまたま格闘技の試合で成績を残しているからであってね。負けている時期も調子自体はずっと変わらなかったし、自分の中では強かった。
僕自身は16年同じことを続けているんだけど、周りの評価だけはクルクル変わる。だから、あまりそこを気にしていてもしょうがないと思うんです。最近は「ベビーターンしたよね」とか言われることもあるけど、僕自身は前から何も変わらないですよ(笑)。
──外野からの声に一喜一憂しないということですか。
青木:勝負事だから、勝つこともあれば負けることもある。今は勝っているから寄ってくる人も多いけど、その状況も簡単に覆ることを僕は知っていますからね。ファンっていうのは自由な立場であるべきなんですよ。チケットを買って観戦して、選手に対してああだこうだ好き勝手に言う。彼らファンにはその権利があるんです。それはテレビの視聴者だって同じことでね。好きになる自由もあれば、文句を言う自由もある。
僕のファンの中にも「もっと仲よく、友達みたいな関係になりたいです」って言う人はいるんですけど、自分は「お前、それはやめておけよ」って応えるんです。「俺の状態が悪くなったとき、お前は本当につき合い続ける覚悟があるの?」ってことですよね。演者と仲よくなるってことは、ファンである自由がなくなるってことだから。その距離感は大事にしたほうがいいと思う。
「那須川天心にボクシングで勝ったら1000万円」企画、リング上で欠場を発表した青木は、代役にアウトサイダー王者で放送作家の大井洋一を連れてきた。その大井が那須川天心への挑戦権をゲットした
5月18日のONEシンガポール大会ライト級チャンピオンシップで青木と対戦するのは、弱冠20歳にして、多くの日本人の強豪選手をなぎ倒してきたクリスチャン・リー。世界最高峰の技術が交錯する一戦となることは間違いない。〈取材・文/小野田 衛 撮影/丸山剛史〉
出版社勤務を経て、フリーのライター/編集者に。エンタメ誌、週刊誌、女性誌、各種Web媒体などで執筆をおこなう。芸能を中心に、貧困や社会問題などの取材も得意としている。著書に『韓流エンタメ日本侵攻戦略』(扶桑社新書)、『アイドルに捧げた青春 アップアップガールズ(仮)の真実』(竹書房)。