結局、依頼を受けることにした斉藤さん。その仕事を終え、彼は妻に妊活を提案した。 「半年の間、時間をくれと頼みました。仕事を整理するから、一緒に子供のいる家庭を作ろうって」 　妻は喜んだ。久しぶりに彼女の笑顔を見た斉藤さんは「よし、やるぞ！」とモチベ―ションがアップしたそうだ。だが1か月も経たないうちに、複数の飲食の取引先が次々と経営悪化となり、閉店を決めたクライアントも出てきた。新規の顧客を開拓しなければ、会社の存続が難しくなる。 　斉藤さんは睡眠時間を削って、新規クライアントをゲットすべく営業に励んだ。そのため、妻との約束の半年が過ぎても、仕事を整理するどころかますます多忙になっていった。 　その年の暮れ、斉藤さんが仕事後に自宅に帰ると「実家に戻る」との置き手紙だけが残されていた。それからしばらくして、妻から離婚届けの用紙が届いてしまう。 「収入は上がったけど、本当に会社を辞めて正解だったのかと思う日々です。お金も大事だけど、やっぱり家庭も大切。独立してからは完全にキャパオーバーでしたね。身の丈以上のことをしなければよかった。毎日寂しいです」 　会社を独立し、サラリーマン時代よりも収入が上がったが、斉藤さんが失ったものはお金に換えられるものではなかったようだ。＜取材・文/夏目かをる＞ ― シリーズ・辞めなきゃよかった ―コラムニスト、作家。2万人のワーキングウーマン取材をもとに恋愛＆婚活＆結婚をテーマに執筆。難病克服後に医療ライターとしても活動。ブログ「恋するブログ☆～恋、のような気分で♪」