いつかはサラリーマンを卒業して独立したいーーそう考えている人は少なくないだろう。だが、いざ脱サラしたら予想もしなかったことが起きるもの。体験者に聞いた。
斉藤信光さん(仮名・40歳)は3年前、15年間勤務した会社を退職して、独立。個人で広告代理店を開業した。
ところが独立した途端、妻との間に冷たい風が吹いてしまったのだ。
会社の出世ゲームを避けて独立

写真はイメージです(以下同じ)
斉藤さんが新卒で入社したのは、社員2000人の中堅広告代理店。企画営業部に配属された斉藤さんは、飲食やコンビニ、アパレル会社などがクライアントで、広告原稿を制作する仕事に就いた。
「30代後半となると、このまま会社に残って出世コースを目指すか、それとも独立するかという選択が目の前にぶらさがりました。部長になるには、複数のライバルに勝利しなければならない。出世ゲームを勝ち抜ければいいですが、負けると今と変わらないポジションで同じようなことが続く。それなら思い切って独立しようと決めました」
一方、カード会社に勤務する2歳年下の妻は、兼ねてから子供が欲しいと言っていた。高齢出産といわれる年齢に入り、場合によっては不妊治療を行うかもしれないという不安もあった。だが斉藤さんは「子どもは授かりものだから」と彼女の希望を受け入れず、独立開業へと突き進んだ。
仕事は前職と同様に、広告原稿の制作。担当したクライアントを一部もらって開業した。オフィスは東銀座のシェアオフィスで、電話1台と、バイト1人、机が2つだけのワンルーム。家賃が5万円だった。
「独立後は、クライアントから土日に呼び出されることが多くなり、日曜の昼に打合せなんてザラでした。企業と違って個人経営のため、クライアントの都合次第で動くことも増えてしまうから休みもない。夜中まで仕事をすることも多くなってきました」

営業も制作も、進行管理も1人で担っていた斉藤さん。そのため独立した途端に忙しすぎてしまい、妻とすれ違いになることもしばしばだった。
「年収は2倍に増えたんですが、妻と食事どころか会話もだんだんなくなっていってしまって」
さらにクライアントとの付き合いが増え、キャバクラに行く機会が増えてしまったのだ。
「妻にバレないように注意したんですが、携帯をチェックされました。それでキャバクラに行っていることがバレてしまったんです。営業メールがバンバン届いていましたからね。『仕事で仕方なく』と説き伏せましたが、妻の不信感は募るばかりだったようです」
そんな時、クライアントから地方の広告案件を依頼された。それを受ければ、1週間家を留守にすることになる。
「妻との間がぎくしゃくしていたので留守にしないほうがいいと思う一方で、仕事を断ると、次から発注がなくなるのではないかという怖さもありました」