ライフ

おっさんの、超どうでもいいボヘミアン・ラプソディ――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第50話>

ボヘミアンであることは大事なのかもしれない

 結局、騒ぎを聞きつけた店員みたいなのが出てきて仲裁していた。 「お客様の番号は61番です」  結局、そう指摘されることになったのだけど、ボヘミアンはそれでも引かず、「逆さに読めるような券を配布するそちらの落ち度」「俺も19番にしろ」と間違いを認めてもなお、強く出ていた。  こういったおっさんは、あまりよくないものだ。ただ、その驚くほどの強引さは心強くもある。  結局、店員の手によって19番を諦めざるを得なかったボヘミアンだったが、去り際にはまた責任転嫁的な言葉を放っていた。 「だから逆さに読めるような券を出すなって」  重複するが、逆さに読まないようにきちんと上下が分かるように注意書きが書かれている。たぶん配布側に落ち度はない。それでもおっさんはブツブツ言っている。 「19番と61番かー」  そろそろこの騒動も終わりだろう、僕も観察をやめて歩き出そうかとしたところ、ボヘミアンが衝撃的なセリフを放った。 「その点、シックスナイン(69)はすげえよな。逆さに読んでもシックスナイン(69)だもん」  そうだけどだからなんなんだよ。  じゃあ69番を引けばよかったとでもいうのか。それだったらお前が引いた「61番」よりもあとじゃないか。  「いやあ、本当にどうでもいい争いだったなあ。特に69は心の底からどうでもよかったなあ」  そう思いながら歩き出す。  基本的にどうでもいい争いだったが、ボヘミアンの行動はなかなか豪快だった。間違いを悟ってなお強く出るところなど、常識や因習に囚われない力強さみたいなものがある。人に迷惑はかけたくないが、どこかであのような力強さを身に着けることは大切なことなのかもしれない。  「ボヘミアン」には「常識や因習に囚われない」と言う意味がある。ああ、だから彼はボヘミアン・ラプソティのTシャツだったのか。それに気づいてハッとなった僕はついつい立ち止まってしまったのだけど、それによって進路を塞がれた後ろのサラリーマンが舌打ちしながら通り過ぎていった。 【pato】 テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。6月29日、本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)を上梓。ブログ「多目的トイレ」 twitter(@pato_numeri) ロゴ・イラスト/マミヤ狂四郎(@mamiyak46
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

1
2
3

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

おすすめ記事
ハッシュタグ