「京アニのおかげで生きてこられた」。放火殺人にファンの慟哭と哀悼
「日本の宝が…」「涙が止まらない」――。世界のアニメファンから悲痛な声が挙がっている。
7月18日、放火されて爆発炎上した、アニメ制作会社「京都アニメーション」通称・京アニのスタジオ(京都市伏見区)。死亡者は34人にのぼり、放火したとみられる青葉真司容疑者(41)も重体だという。
誰が狙われたとしても最悪の犯罪なのは当然だが、「まさかあの京アニが…」という衝撃は大きい。米企業が立ち上げた、同社を支援するクラウドファンディング「Help KyoAni Heal」には、目標75万ドルに対して世界中から約140万ドル(約1億5000万円、19日22時時点)が集まっている。
実は、週刊SPA!界隈でも京アニファンは多い。表紙と付録ポスターに『映画けいおん!』の絵をオリジナルで描いてもらったり、同社のアニメーション監督で『涼宮ハルヒの憂鬱』を生み出した石原立也監督にロングインタビューさせてもらったこともある。
一方で、アニメを観ない人にとっては、京アニが「日本の宝」だと聞いてもピンとこなかったりもする。そこで、熱烈なファンである犬飼孝司・週刊SPA!編集長に、京アニがかくも愛されるわけを聞いた。(以下「 」は犬飼談)
「被害の大きさが伝わるにつれ、正直に申し上げてあまり仕事が手につきません。とても大事にしていたものが失われてしまうかもしれないという恐怖は言葉で表せないほどで、先の見えない暗闇と向き合っているような思いです」
京アニは1981年創業。当初は下請けとしてタツノコプロやジブリなどの作品に参加していたが、クオリティの高さで有名だったという。2003年から元請け制作をスタート、『涼宮ハルヒの憂鬱』(’06)、『らき☆すた』(’07)、『けいおん!』(’09)など世界的ヒットアニメを連発し、現在も人気作品を生み出し続けている。
早くからデジタル化を進め、ほとんどの工程を外注でなく社内制作すると言われているが、京アニはどこがそんなに凄いのだろうか?
「私は単なるいちファンなので制作過程などの特長などについて語れる知識はありませんが、2006年に放送された『涼宮ハルヒの憂鬱』が日本のカルチャーを語るうえで外せない作品であることは疑いようもありません。日本のアニメの可能性を何年も先に進めた作品だと思います。
ほかにも、『けいおん!』『中二病でも恋がしたい!』(アニメは2012)、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(アニメは2018)など、好きな作品は数えきれません。これらの物語の多くは高校が舞台です。それぞれこんな高校生活があったら最高だよな、と誰しもが思う作品です」
京アニは2011年に「KAエスマ文庫」を立ち上げてライトノベルを募集、原作まで自社で生み出していた。『中二病~』『ヴァイオレット~』は自社文庫からアニメ化された。
「たとえフィクションであっても、物語は見た人の原風景になった時点で生きる勇気になります。その一瞬は心に折り重なるように堆積して、やがて自分だけの信念となります。そこに年齢は関係ありません。私は京アニの作品から数多くの信念をもらいました。
小説やマンガ、音楽、ゲーム、映画、人はみなカルチャーに勇気をもらい、自分だけの原風景を心に持っていると思います。『あの人のあの一言があったから、今日も生きていける』というのは決しておおげさではなく、京アニはそんな原風景となるシーンを数多く生み出してきた会社です。
今回の事件で、そういった一瞬に触れられる機会が減ってしまう可能性を考えたとき、社会の底が割れてしまったような恐怖を感じます」
ショックと恐怖で仕事が手につかない
「京アニのおかげで生きてこられた」という人は多いはず
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