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“絶対に怒らない男”をキレさせるために苦心した結果――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第76話>

超わかりにくい仏の哲の怒りのツボ

 ただ、何もしないわけにはいきません。なぜならドラゴボ講師がこちらを睨んでいます。彼はたぶん怒りの沸点が低いので言われたとおりにやらないとめちゃくちゃ怒りそうな気がします。  けれども、哲さんには伝わらないだろうし、伝わったところでそう意味もないので、別にどうでも良さそうな怒りエピソードを披露しました。きっと、絶対に伝わらないささやかな怒りです。 「ずいぶん前の話になるんですけど、ある映像を撮ろうと思って友人と広島カープのユニフォームを着て都内の各所を徘徊して撮影していたんですよ」 「ふむふむ」  絶対に伝わらないだろう。それでも仏の哲は笑顔で聞いていた。 「最後に、東京ドームの付近を歩いたんですけど、ちょうどその日、東京ドームで関ジャニ∞のコンサートがあったみたいで、ファンの女の子でめちゃくちゃごった返してたんですよ。それこそ人を掻き分けないと進めないくらい」  僕の説明を哲さんはうんうんと聞いている。ここからが怒りのポイントだけど、哲さんには絶対に伝わらない。 「こりゃもうたまらん、ダメだ。ドームの向こう側の駅まで進もう、とファンの子たちを掻き分けて進んでいたら一人のギャルっぽいファンの子がカープのユニフォームを着ている僕らを見て言ったんです。なんで東京ドームに野球ファンがいるんだよそう言ったんです。東京ドームに野球ファンがいるの、普通じゃないですか」  確かに、関ジャニ∞コンサートの混雑に巻き込まれた僕らが悪いけど、東京ドームに野球ファンがいること普通じゃないですか。いる日のほうが多いじゃないですか。ちょっと怒ったんですよ。けれどもまあ、こんなもんささやかな怒りじゃないですか。絶対に仏には通じないじゃないですか。伝わらない、でもそれでいい、そう思っていた瞬間でした。 「東京ドームは野球ファンのものやろがー!」  めちゃくちゃ怒りだすんですよ。仏の哲が怒りだすんですよ。狂い咲きですよ。もう修羅の哲ですよ。  怒るポイントがよく分からないし、怒りすぎだし、ぜんぜんアンガーマネージメントできてないし。なんだ、野球がトリガーか。  その後もずっと2008年のドラフトがとか意味不明なことをブツブツ怒っていたので、たぶん野球に関して全くアンガーマネージメントできてないんだと思う。  結局、仏の哲と一緒だから、適当に人を選んで研修に派遣したんだ、と思っていたのだけど、その哲は修羅だった。つまり僕も含めてアンガーマネージメントが必要そうな人を適切に選んで派遣してきた可能性が高い、ということだ。つまり、やっぱり僕も怒りっぽいと思われている。  ちなみに、怪しげな講師、研修が終わったあとに助手っぽい人に「予約しとけっていったろ」と、いとも簡単に、めちゃくちゃにキレていたので、たぶんこの人もアンガーマネージメントが必要だ。 ロゴ・イラスト/マミヤ狂四郎(@mamiyak46
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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