中国のコロナウイルス情報は信頼できるか?日本は対外情報機関を持つべき/江崎道朗
昨年末、中国・武漢で発生した新型肺炎に対する日本政府の初動のまずさが批判されている。中国、特に武漢市の情報公開が不十分だったこともあって、どうも事態を軽く見ていたようなのだ。
厚生労働省は公式サイトのトップに「中華人民共和国湖北省武漢市における新型コロナウイルス関連肺炎の発生について」という項目を新設し、国民に対してこう呼びかけた。
《新型コロナウイルス感染症の現状からは、中国国内では人から人への感染は認められるものの、我が国では人から人への持続的感染は認められていません。
国民の皆様におかれては、過剰に心配することなく、季節性インフルエンザと同様に咳エチケットや手洗いなどの感染症対策に努めていただくようお願いいたします。》
要は過剰な心配は無用と言ったわけだ。しかし、そう断言できるだけの情報を、この時点で日本政府が持っていたとは思えない。
なにしろ世界保健機関(WHO)でさえ1月24日、中国政府に対し感染源や感染経路の特定をWHOなどと協力して行うよう求めている。というのも23日、中国当局は武漢を出発するすべての旅客機および旅客鉄道の営業を停止すると発表。続いてバスや地下鉄、フェリーなどの運行も停止。武漢市は公共交通機関の全面停止という「都市閉鎖」に踏み切った。
新型肺炎が通常のインフルエンザと同じ程度の感染力なら、なぜ都市封鎖をするのか。何か隠しているのではないか、というわけだ。
中国で初めての死者が出たのが1月9日。その12日後の1月21日、日本政府はようやく「新型コロナウイルスに関連した感染症対策に関する関係閣僚会議」を開催し、次のように申し合わせた。
《国際的な連携を密にし、発生国におけるり患の状況や感染性・病原性等について、世界保健機関や諸外国の対応状況等に関する情報収集に最大限の努力を払う》
日本としては中国政府やWHOから「情報」をもらうよう努力する、というわけだ。
申し合わせはこう続けている。
《国民に対して、引き続き迅速かつ的確な情報提供を行い、安心・安全の確保に努める。》
この「的確な情報」とは、いったい何を意味するのだろうか。中国の情報を信用できないから米国も台湾もWHOも苦労しているのだ。少なくとも中国からもらった「情報」は「適切な情報」ではない。そして現在の日本に、中国の「情報」を検証する力があるとは思えない。というのも先の大戦で敗北して以来、外国の内情について独自に情報を集めるCIAのような対外情報機関が、日本には存在しないからだ。
一方、米国や台湾が今回、機敏な対応をとることができたのは、対外情報機関を持ち、中国各地に情報網を張り巡らせているからだ。
「的確な情報」があってこそ「的確な対応」も可能となる。海外で暮らす国民、そして海外からの来訪者と接する国民の「安心・安全の確保」のため、日本も他国並みの対外情報機関を持つべきではないだろうか。
(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio
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信頼できない中国からの情報
CIAのような対外情報機関を日本も持つべき
『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』 経済的安全をいかに守るか? |
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