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新型コロナで東京五輪「中止」の可能性、IOCの真意はどこにあるのか?

IOCの「ご意見番」ディック・パウンド委員の鶴の一声で東京都と組織委員会は戦々恐々!

「東京に行くべきか? 否か? 遅かれ早かれ考えなければならないときがくるだろう」 新国立競技場 IOC(国際オリンピック委員会)副会長やWADA(世界反ドーピング機関)委員長を歴任し、現役のIOC委員のなかでも最古参の「ご意見番」として知られるディック・パウンド氏の発言が物議を醸している。  2月25日、パウンド氏はAFP通信のインタビューを通じて、東京五輪・パラリンピックを前に新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めをかけられない日本を見透かすように「大会中止」の可能性を示唆。翌日には、ロイター通信の取材に対し「もし日程の再検討が必要となれば、理論上は同じ開催時期で’21年に延期される可能性もある」と新たなプランを提示したのだ。 「委員の個人的見解。担当者からはしっかりやれと言われている……」  パウンド氏の発言を受け、東京都の小池百合子知事はこう反論したが、同氏が「IOCが最終決定を下すデッドラインは5月半ばくらいになる」と具体的な日程を挙げたため、橋本聖子五輪担当相も対応に追われるなど動揺が広がっている。
安倍晋三首相

安倍晋三首相は29日の会見で、開催が危ぶまれる東京五輪について「安全で安心できる大会となるよう万全の準備を整えていく」と語った

 27日にはIOCのバッハ会長が緊急の電話会見を開催。記者団からパウンド氏の発言について問われると「臆測の火に油は注がない」とかわすも、その後、昨年11月にマラソン競技の開催地変更をゴリ押ししたコーツ調整委員長が「パウンド氏の考えは否定しない」との見方を示したため、大会の中止や延期の可能性がここにきて一気に現実味を帯びてきたのだ。果たして、IOCの真意はどこにあるのか? スポーツ文化評論家の玉木正之氏が話す。 「IOCの観測気球にほかならず、発言力のある重鎮にアナウンスさせることで、新型コロナウイルスの終息に本腰を入れるよう強く迫ったと見ていい。  13日に、組織委の森喜朗会長が『中止や延期はまったく検討していない』『私はマスクをしないで頑張る』と発言した直後にパウンド氏がメディアに登場したことからも明らかです。  IOCは本音の部分では中止だけは避けたいと願っている。IOCの総予算の約7割が放映権料で、’16年のリオ五輪で見ると28億7000万ドル(約3000億円)にも上ります。これを米国のNBC1社がすべて賄っており、中止となればこのおこぼれに与れないどころか、莫大な違約金を支払う羽目になりますから。  ただ、五輪憲章では選手の安全が確保されない限り中止もやむなしとの規定があるため、世界的なパンデミックになればその可能性は高くなる」  28日、WHO(世界保健機関)のテドロス・アダノム事務局長は、新型コロナウイルスの世界的なリスクを「高い」から最高レベルの「非常に高い」に引き上げたばかりだ。現時点でパンデミック宣言については時期尚早という認識を示しているが、事態が一気に動く可能性も否定できないという。玉木氏が続ける。 「大会を主催するのはあくまでIOCです。組織委や東京都は大会の準備とサポートをする立場でしかなく、中止・延期の決定はすべてIOC理事会に委ねられている。暑さ対策が懸念されマラソンと競歩が無理やり札幌開催に変更されたときも、コーツ調整委員の掛け声で見直しが始まった。あのとき、東京都には反論の機会すら与えられなかったのを見ても明らかなように、私たちはIOCが決めたことに従う以外ないのです」

中止になった場合の損失は?

 当然、中止になった場合の損失は計り知れない。建築エコノミストの森山高至氏が話す。 「東京都オリパラ準備局の試算では年間約1兆8000億円、招致が決まった’13年から五輪10年後の’30年までの18年間で、総額約32兆3000億円の経済効果がもたらされると見積もっている。内訳は、会場などの施設整備費、輸送やセキュリティ、広報まで含めた大会運営費、観客の支出や家計消費、企業のマーケティング活動費などで、これらの直接的効果が約5兆2000億円。  交通インフラの整備や大会施設の後利用、さらには、外国人観光客による五輪関連施設の聖地巡りといったインバウンドを含む『レガシー効果』は約27兆円に上ります。  しかし、これらはすべて五輪の成功を前提にした試算にすぎない。五輪が開催されて初めてブランディングされ、レガシーとなり、多くの観光客が集まるわけですから、中止になればこうした効果は一切期待できなくなる」  さらに、すでに完成した施設も、日の目を見ることなく莫大な維持費がかかる厄介なハコモノになる可能性が高いという。森山氏が続ける。 「もっとも無駄になるのは約300億円を投じて建設した海の森水上競技場でしょう。そもそもボートは英国発祥のスノッブな競技で、本来なら競技場の側にボートハウスや合宿所があり、そこがサロンになるのですが、こうした文化をすべて無視してつくられている。加えて、ボートは通常『淡水』で行う競技なのに海の上に建てられており、中止になればすぐさま解体される可能性すらあります。  新国立競技場も有名アーティストのコンサートは決まっている一方で、メインとなるスポーツ利用の目途はいまだ立たっていません。建設当初、サッカー場にするか陸上競技もできる施設にするか議論があったが、仮に、プロサッカーチームのホームスタジアムにするにしても改築が必要で現実味は薄い。陸上競技場として使うにしても、世界陸上のようなビッグイベント以外はそれほど集客が見込めず、国際基準であるサブトラックさえないので国際大会も開けないありさまです」
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