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“新型コロナショック”で今必要なのは、不況対策だ/江崎道朗

NYダウ

NYダウでは過去最大の下げ幅を記録するなど世界的に株価が乱高下し、“新型コロナショック”の様相になっている。減税や社会保険料の減免など、短期間で効果が出る不況対策を打ち出せるか。今こそ、日本政府の意志を“予算”で示すべきだ 写真/時事通信社

新型肺炎「不況」対策は減税と社会保障費の減免で

 今必要なのは、不況対策だ。新型肺炎対策で安倍首相は2月27日、全国の小中高校などに対して、臨時休校を要請すると発表した。この措置に連動して全国各地のイベントなども相次いで中止され、自粛ムードが急速に広がり、飲食業や観光業は悲鳴を上げている。  それでなくとも一昨年来、米中貿易戦争と中国経済の減速に伴い、世界経済は下降局面にあった。そこに今回の新型肺炎ショックで、中国の製造業が麻痺し、世界経済が混乱している。  2月27日のニューヨーク株式市場は史上最大の下げ幅を記録し、アジアやヨーロッパの市場でも大幅に下落するなど、「世界同時株安」が発生した。  タイミングが悪いことに日本は昨年10月に消費税増税に踏み切ったことで、’19年10〜12月期のGDPが5四半期ぶりのマイナスになった。この数字は新型肺炎ショック前のデータで、このままだと大量の中小企業が倒産に追い込まれる恐れが出てきた。  そこで安倍政権は昨年12月に総合経済対策とそれに基づく補正予算(4.3兆円分)を実行するだけでなく、今回新たに各地の信用保証協会が中小企業の借入金を100%保証する制度を実施し、中小企業の資金繰り対策を強化している。また、一斉休校で休暇を余儀なくされる人たちの収入減にも賃金補償(雇用調整助成金)を実施することを明言した。  だが、助成金は煩瑣な手続きが必要で使い勝手が悪い。中小企業向けの日本政策金融公庫の保証枠も6000億円程度だ。

新型肺炎不況への強い意志を予算で示せ

 一方、新型肺炎「発生源」の中国でも経済対策が次々と打ち出されているが、規模が大きいうえ、減税や社会保険料の減免といった即効性のある措置が取られている。  中国人民銀行(中央銀行)は2月26日、新型肺炎の影響を受ける中小企業を支援するため、既に公表済みの3000億元分に追加して、新たに5000億元(約7兆8000億円)の貸付枠を設定すると発表した。  中国政府側も、社会保険料の企業負担分を一定期間減免することを表明。3月3日付ロイターによると、企業が拠出する社会保険料を今年1兆元(約16兆円)軽減し、企業の税負担も今年5100億元(約8兆円)の軽減を目指すという。合計24兆円分の減税と社会保険料の免除によって企業を支援しようとしているわけだ。  日本もこの半分程度でいいので減税、できれば消費税減税と社会保険料の減免に踏み切るべきではないか。  幸いなことに’13年当時より国債発行額は約14兆円減っており、財源は新規国債発行で賄えば増税は不要だ。あえて財源の話をするのは、今回の経済支援を理由にその後、増税をすれば、それこそ不景気に落ち込むことになりかねない。よって、「実質2%程度の安定的な経済成長」という公約を実現するまでは、あらゆる増税をしないと併せて宣言すべきだ。  危機管理とは、国民に展望、希望を与えることだ。新型肺炎不況に立ち向かう日本政府の意志を、予算として示してもらいたい。
(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

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