最狂シェアハウス「渋家」。ホームレスからクリエイターに転身する住人も
アートや音楽を志す若者たちが共同で生活するシェアハウス「渋家(しぶはうす)」。これまで数々の著名なクリエイターや写真家を輩出したことでも知られている。
だが、その実態はお洒落なシェアハウスとは程遠い。男女雑魚寝という生活に加え、カオスなパーティを繰り広げることから、「最狂シェアハウス」「人工スラム」と呼ばれることも……。先日、筆者が遊びに行ったときも、酔った住人がフルチンで暴れまわっていたので目を疑った。
そんな渋家だが、今年4月には渋谷駅近くの高級住宅街・南平台から同じ渋谷区内の別の物件へと引っ越した。新しい場所で始まった渋家はどこへ向かうのか。
渋家がアーティストの齋藤恵汰さんによって創設されたのは、2008年のこと。当社は池尻大橋にある物件を借りていたが、2011年に南平台にある3階建ての物件に引っ越してきた。
地下には「クヌギ」と呼ばれるパーティスペースと浴室があり、2階のリビングはメンバーのたまり場となっていた。布団が床一面に敷いてある3階の寝室では、メンバーたちが男女一緒になって雑魚寝していた。
住み始めてからもう5年になるというKENTさん(20代前半)は、現在映像制作やMVのアートディレクションを手掛ける。自身が入居したのは、10代の頃から好きだったレコード・レーベルのオーナーが住人だったことがきっかけだ。
「高校を卒業する前に進路に悩んでいたんです。僕はずっとMaltine Recordsというレーベルが好きだったのですが、そのオーナーであるtomadさんが渋家に住んでいたんです。tomadさんに会いに来て、それがきっかけで僕も住み始めました。今では一緒に仕事をさせてもらっています」
渋家に住み始めるきっかけは様々だ。今年2月に入居したばかりの上梨さん(20代前半)は、ホームレスだった頃に渋家と出会ったという。
「去年、彼女と高円寺で同棲していたんですが、実家に帰省している間に彼女が浮気して、同棲していた家から追い出されたんです。それで2019年の10~12月は“ホームレス”状態で、友人の家を転々としていました。そんななか、マッチングアプリで住人の一人とマッチして、渋家について教えてもらいました」
現在は、運営メンバーとして活動しながら、作家を目指して創作に取り組んでいるという。
上梨さんのように“ホームレス状態”から渋家にたどり着く人も少なくない。カイザーさん(20代後半)もそうしたうちの一人だ。
「元々は、大阪で土方仕事をしていました。独り立ちを果たして、借金も返し終わって、やっと落ち着いて生活できると思っていた矢先に、元妻の浮気が発覚したんです。離婚して、仕事も上手くいかなくなってダメだと思って、飛んで、ホームレスになって渋谷に来ました。
まだ4月でとても寒かったので、泊まれるところを探していたら、たまたま渋家のメンバーに出会ったんです」
渋家が、家を失った人たちの“受け皿”のようになっている現状を指して「渋家がないと死んでしまう人がいる」と話すのはKENTさんだ。
「昔、16歳の女の子を渋谷駅で拾ったことがあります。その子は、家庭環境が悪くて、北海道から家出して上京したのですが、たまたまメンバーに会って渋家に住み始めんです。『この家がなかったら死んでいた』『この家に助けられた』と話していました」
これらのエピソードからも分るように、家庭環境が悪いなど、何らか問題を抱えているメンバーを受け入れる土壌が渋家にはある。
「家庭環境が悪いとスレてしまいますよね。お金もなければ、大学にも行けない。でも、野望は持っている。渋家のメンバーは、“ヤバい奴”ばっかりで、大抵は普通に働けません。家賃を滞納することもあります。でも、それをお互いに許し合ったり、話し合ったりすることで補っているんです。誰かが追い出されることなんてありません。見捨てることはしないんです」(KENTさん)
「大抵は普通に働けない」という言葉にあるように、筆者が取材を行った住人4人のうち2人はフリーターだと話していた。他にも、ニートだという女性のメンバーや、コロナ禍で仕事がなくなりホストになったという男性メンバーもいる。
ホームレスから渋家の住人に

“ヤバい奴”同士で許し合う文化

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