更新日:2020年07月20日 16:18
エンタメ

渋谷ギャルのカリスマ歌姫の今、「ナツラブ」大ヒットから約10年…

アラサーで抱えた葛藤「20代と30代ではぜんぜん違う」

MAIKO 中学時代からギャル雑誌を読み漁り、編集部に電話をかけるほどだった。そんなMAIKOさんにとって、「ギャル」と「歌手」の両方を備えたJulietの活動は、まさに夢の集大成と言えるだろう。  若者たちの恋心の代弁者と呼ばれたJulietだが、誰もが年齢を重ねるに連れ、価値観が変わっていくものだ。そんななか、30歳を迎えるあたりから“葛藤”が生じるようになったという。 「いつまで恋愛ソングを歌うのか。歌詞に関しても、今までは若者に向けて等身大でよかったけど、20代と30代では身の回りに起きる出来事もぜんぜん違う。しかもソロではなく、グループだから。何をどうやって歌うことが求められているのか。また新しい言葉をつくらなきゃ、ブームをつくらなきゃって焦りもありました」  渋谷とギャルの形も次第に変化していく。街中で会った「ナツラブ」「フユラブ」時代のファンから「昔聞いていました」と声をかけられることもあった。まだ活動していただけに、複雑な気分だった。  そして、2015年にメンバーのひとりが脱退。さらに事態はJulietを解散するかどうかという段階まできていた。だが、そこでMAIKOさんは改めてJulietの大切さを再確認したのだ。ふたりでJulietを守っていく。活動を続けていくことを決めた。 「実際、私たちも渋谷に行く機会が減っていた。ギャルブームが去って、Julietの居場所が無くなっていくような感覚もありました。そんなとき、マルキューの店で私たちの曲が流れていて……。まだ渋谷にJulietが生きているんだなって、励まされたこともありました。変わらなくていいこともあるのかな、まだ求められているのかなって」

ユニット解散、燃え尽き症候群に…現在は個人に向けた結婚式の楽曲で歌う

MAIKO ユニットとしてはもちろん、引いては音楽業界全体として難しい時期もファンの人たちがいてくれたから乗り越えられたという。だが、2018年末にJulietはその活動に幕を下ろす。 「お客さんが最後のひとりになるまで続けることもできたと思うけど、自分たちが楽しんでいるうちに終わらせたかった。それが私たちらしいかなって。ただ、Julietが解散したときに、燃え尽き症候群じゃないですけど、これからどうしようかなって」  渋谷の街は、10年前とは大きな変化を遂げていた。“今”流行りの音楽が耳に入ってくる。 「今伝えるべき人たちが、きちんと伝えている。あのときに感じたことは、あのときにしかつくれない。二度と『フユラブ』みたいな曲はできないと思う。ただ、あの時代をちゃんと生きたんだなって。自分にとって、絶対に勝てない過去があることは幸せなこと。それは自信だし、これから生きるうえでも大事にしたい……」 MAIKO Julietの活動で、すでに大きな夢を実現してしまったMAIKOさん。今後どのように音楽と関わっていくべきか思案していた。  今度は、かつての自分のように夢がある人を支えたい、サポート側にまわるのもいいかもしれない……。そんなことを考えていたときに、Julietの楽曲制作も担当していた音楽プロデューサーの須賀満氏(※)から声がかかる。 (※)音楽ユニット「Vo Vo Tau」の元メンバーで、AI、ケツメイシ、加藤ミリヤなど、さまざまなアーティストの楽曲制作を手掛ける。  須賀氏を中心にスタートした個人向けの楽曲制作サービス「MY SONG」プロジェクト。それは、作詞作曲からレコーディングまでプロの制作チームが“あなたのため”の曲をつくるというものだ。そこで歌ってくれないか、という誘いを受けて承諾したが……。 「最初は自分の名前を伏せてくださいってお願いしたんです。私にとってはJulietが大きかったので……。今まで応援してくれていたファンの人たちに対して、単純に私が再び歌い始めました、みたいなのは違うと思ったんです」
MAIKO

曲を確認するMAIKOさん(提供写真、以下同)

 そして、どこか迷いがありながらもレコーディングの日を迎えた。歌詞を眺める。その曲は、ある新郎新婦の結婚式のためのものだった。新郎がギターを弾けることから、その演奏も録音されていた。スタッフが固唾を呑んで見守るなか、彼女がブースに立つ。 レコーディング中「やっぱり、私は歌うことが好きなんだって。ものづくりの環境が好きなんだって……」
レコーディング中

レコーディング中のMAIKOさん

 改めて自分の気持ちに気づいた。完成した曲が依頼者に届き、結婚式当日の映像を見てみると……新郎新婦や喜ぶひとたちの笑顔に胸がいっぱいになったという。
「Julietのときは“みんなのため”の曲だったけど、今回はその相手が明確で。結婚式や記念日に、大切な人のために歌う。普段はなかなか伝えられない想いを、私が代わりに届ける。本当の意味で世界に一曲だけ。それが、こんなに素敵なことなんだって。これからの私の音楽との関わり方、これまでとは違った音楽のあり方を伝えていきたいと思ったんです」  MAIKOさんは、新たな一歩を踏み出すことを決意した。その表情は晴れやかだった。  ふとした瞬間に流れる音楽に、あの頃の記憶と感情が呼び起こされることがある。Julietの曲はもちろん、MAIKOさんがこれから歌う曲も。きっと、だれかにとってそうなるに違いない。<取材・文/藤井厚年、撮影/鈴木竜太>
明治大学商学部卒業後、金融機関を経て、渋谷系ファッション雑誌『men’s egg』編集部員に。その後はフリーランスとして様々な雑誌や書籍・ムック・Webメディアで経験を積み、現在は紙・Webを問わない“二刀流”の編集記者。若者カルチャーから社会問題、芸能人などのエンタメ系まで幅広く取材する。X(旧Twitter):@FujiiAtsutoshi
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