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アルピニスト・野口健が緊急提言!尖閣諸島を守る切り札

尖閣の生態系悪化は2頭のヤギからはじまった

アホウドリ

尖閣諸島の絶滅危惧種・アホウドリ

――そもそも、尖閣諸島が直面する環境問題とは何なのか。 野口:尖閣には多くの稀少固有種が豊かな生態系を形づくっていた。ところが、’78年に右翼団体・日本青年社が魚釣島の実効支配のために灯台を建て、そのときに持ち込んだヤギ2頭が野生化し、10年ほど前の調査によれば実に600頭にも増えている……。  尖閣の実効支配を強化するために灯台を建設したことは立派だし、魚釣島に人がいることの証としてヤギを持ち込んだことも理解できる。ただ、そのヤギがまさかここまで増えるとは、彼らも考えていなかったのでしょう。  ヤギによる環境被害は深刻です。食害で稀少な植物が食べられてしまうだけでなく、山肌は裸地化し、糞尿害による土壌悪化でセンカクモグラなどの動物も激減している。生態系が危機に晒されており、早急にヤギを駆除する必要があります。

もともと出発点は領土問題ではなく環境問題

――一般にはあまり知られていないセンカクモグラにフォーカスし、守る会を立ち上げた理由は? 野口:実は、センカクモグラを知ったのは守る会を立ち上げるかなり前、東京都レンジャー(自然保護指導員)隊長として小笠原諸島で活動をしていた頃に遡る。小笠原でも固有種の危機が深刻で、離島のヤギ害問題を調べていてセンカクモグラの存在を知りました。  だから、尖閣の問題に突然、目覚めたわけではなく、もともと出発点は領土問題ではなく環境問題。領土問題の切り口では活動できないから、新たなアプローチを考えたというわけです。  領土問題として捉えてしまうと互いに譲らず、国家間の対立が激しくなる。守る会のマスコットはデザインや名前を公募しましたが、敢えてゆるキャラ「もぐもくせんちゃん」にしたのもトゲトゲしたくなかったからです。  それに、実際に争いになったら、中国の力は大きな脅威です。多くの日本人は、中国がこれほどあからさまに力による領土変更を試みることなど予想していなかったが、一国二制度を保障する英国との条約を反故にした上、強権的に支配を強めている香港の現状を見ればわかるように、中国は本当にやる国なのです。  振り返れば、北京五輪が開催された’08年、中国に弾圧されていたチベット人が暴動を起こし、欧州各国は開会式のボイコットを検討したが、結果的に実行には移さなかった……あのときが国際社会が中国を止める最後のチャンスだった。尖閣にしても、中国が本気ならすぐにでも取られてしまうかもしれないが、オバマ政権時、クリントン国務長官が『尖閣は日米安保条約の適用範囲内』と明言しており、ストッパーになっている。だが、仮に次期大統領が『適用範囲外』と言ってしまえば、そのときは本当に危うい。  こうした危機的状況のブレイクスルーとなるのが、環境問題という切り口なのです。環境問題は万国共通のテーマで、自然環境がよくなって怒る国はない。仮に自国のためだけに取り組んだとしても、結果的に地球全体のためになるので争いになりにくい。また、沖縄の自然は外国人に人気があるので、国際社会に注目されやすい利点もある。
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中国が激しく反発をするようになったのは国有化の後
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