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ドコモ2980円新プランにみるNTT「大逆転の野望」。時価総額世界1位だった過去も

“世界経済のPL学園”的存在だったNTTの起死回生の一手は…

 実は、ドコモの完全子会社化は、NTTにとってこれから続く改革のほんの序章にすぎません。今後は通信、テクノロジーの分野だけでなく、モビリティ、エネルギーなどをさまざまなプレーヤーを巻き込みながら業界の再編を進めていくと言われています。  NTTといえば、平成元年には世界の時価総額ランキングで一位を獲得し、さらに2000年にはドコモが時価総額43兆円と、時価総額日本一だった時代があります。つまり、NTTは甲子園で言うPL学園、ドコモは横浜高校のような存在だったのです。  あれから30年――。  その間に、甲子園では履正社を代表とする新興実力校が台頭したように、世界でも日本企業はその存在感を発揮できなくなり、GAFAやファーウェイに代表されるアメリカ、中国のIT企業が圧倒するようになりました。これに対して何より危機感を抱いているのが澤田純社長だったのです。  澤田氏はグループで分散していた海外事業を再編し、不動産や電力などの新規事業を稼働させるなど改革を進めてきました。

GAFAに勝つためのNTT2つの施策とは?

 では、澤田氏はGAFAへ対抗するべくNTTで具体的にどのような施策を実行していくのでしょうか。ここでは、2つのキーワードを抑えておきましょう。 1.IOWN(アイオン) 2.O-RAN  1つ目のIOWN構想は、簡単に言えば「未来予想」ができるようになるということです。  IOWN構想は、光技術を使って消費電力を下げつつ、伝送容量を上げることで遅延が生じない情報通信を確立するというものです。これはNTTのお家芸である「光ファイバー」の技術が支えることになります。  IOWNで膨大な計算能力を使えるようになれば、どのようなことが可能になるでしょうか。たとえば医療やヘルスケアの分野で言えば、バイオデータを活用した高度な未来予測が可能になります。体温や血圧、心拍数などの日々のバイオデータにこれまでかかった病気の履歴、ゲノム情報などを合わせて演算処理することにより、自分がいつごろ、何の病気にかかりやすいかを正確に予測できるのです。  もはや、星野源さんすらも知らないであろうNTTの姿がそこにあります。  2つ目のキーワードは、「O-RAN」。O-RANとは、簡単に言えばオープンな無線アクセスネットワークのこと。詳しく説明します。  2020年6月、NTTは5G通信網の共同開発などを目的としてNECの株式5%を取得し、資本関係を構築しています。この意図はいったいなんでしょうか。  それは世界の基地局市場を囲い込むというもの。具体的には、複数のベンダー(製造元)の製品を組み合わせて使えるようにする「オープンインターフェース化」を提唱しているのです。この件については、これまで各ベンダーでデータや制御信号が異なっているため通信ネットワークが不便だったとだけ抑えておけばOKです。  それに対して「O-RAN」を全世界の通信キャリアに普及させれば、さまざまな企業が5G向けの通信ネットワーク機器を提供しやすくなるのです。これに成功すれば、NTTはいち早くこの分野で一歩リードでき、GAFAにも対抗できる可能性があるというわけです。日本企業の古豪復活、と言わんばかりのNTTの新たな挑戦はいま始まったばかりなのです。
馬渕磨理子

馬渕磨理子

経済アナリスト/一般社団法人 日本金融経済研究所・代表理事。(株)フィスコのシニアアナリストとして日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでベンチャー業界のアナリスト業務を担う。著書『5万円からでも始められる 黒字転換2倍株で勝つ投資術』Twitter@marikomabuchi
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