更新日:2021年05月18日 13:21
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報道されない“謎の死亡事件”。東京入管でもスリランカ人男性が急死していた

「裁判をしなければ、いいように考えてあげる」と入管に言われ時効に

ジョージさんと入管とのやり取りの記録

ジョージさんと入管とのやり取りの記録。ここで「甥」とあるのは、実の親子と知られると不利益になるのではとの怖れから、当初ジョージさんは自分をニクラスさんの「甥」と偽っていた

 ニクラスさんの死から、筆者がジョージさんに会った昨年2020年ですでに6年が過ぎている。ジョージさんは一度だけ、父の死後に記者会見を開催したことがある。しかしその後、父の死の真相を明らかにするために入管から資料を取り寄せるなどの積極的な行動は少なかった。  というのは、自身が難民認定申請者という弱い立場であり、入管からは「入管相手に裁判をしなければ、いいように考えてあげる」との言葉をかけられていた。もしかしたら何かしらの在留資格を受けらえるのではとの希望から、裁判を避けていた。家族(妻と子ども)のために難民認定、せめて在留特別許可を受けることを優先していたのだ。  だが、2018年8月に難民認定申請も在留特別許可も認められず、自身は「仮放免」、子どもは「仮滞在」という扱いになった。2回目の難民認定申請は2019年2月22日に出している。
東京都による「ニクラスさん死亡事案」に関する調査報告書

東京都による「ニクラスさん死亡事案」に関する調査報告書。情報公開請求をしても、出てくるのは黒塗りだらけの書類だった

 国賠訴訟をしようにも、すでに時効の3年は過ぎてしまって、もう提訴できない。さらに納得できないのは、入管から父のケガや病状などについての説明が未だ何もないことだ。入管は、ニクラスさんが「病院に連れて行ってほしい」と言ったことすら認めていない。

時効を迎え、このまま闇に葬られるのか

 ロイター通信の取材に対して、入管は「すでに心筋梗塞もしくはその切迫状態にあったと思われ、医療機関に連れて行くことが必要であったが、その時点での病状判断は難しかった。通訳(Rさん)が正確な通訳をしなかった」と、責任転嫁するような回答をしている。  ジョージさんには「このまま真相が闇に葬られていいはずがない」との思いが、年々強くなっているという。ニクラスさんの死の直前に「何かが起きた」。それだけは間違いない。  ジョージさんは、監視カメラの映像などの公開を入管に求めたが、すべて断られている。ニクラスさんの死はこのまま闇に葬り去られてしまうのだろうか。 <文・写真/樫田秀樹>
フリージャーナリスト。社会問題や環境問題、リニア中央新幹線、入管問題などを精力的に取材している。『悪夢の超特急 リニア中央新幹線』(旬報社)で2015年度JCJ(日本ジャーナリスト会議)賞を受賞。Twitter:@kashidahideki
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