入管施設で死亡したウィシュマさんの訴え「水も飲めない」「体が石みたい」
体重が20kgも激減、吐血と嘔吐を繰り返し、まともに食事を取ることもできない――。
名古屋入管に収容されていたスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさん(享年33歳)は、著しい体調の悪化を訴えていたにもかかわらず、治療らしい治療も受けられないまま今年3月6日に死亡した。
ウィシュマさんは「日本の子どもに英語を教えたい」という夢を持って、2017年に留学生として来日。だがその後学費を払えなくなり、通っていた日本語学校の学籍を失ったことで在留資格も失い、昨年8月に名古屋入管の収容施設に収容された。
コロナ禍でスリランカへの定期便がなくなったことや、当時交際していた男性から「帰国したら殺す」と脅されたなどの理由で帰国できずに収容が続き、今年1月以降に健康状態が悪化。3月6日に帰らぬ人となってしまった。
筆者は、ウィシュマさんが名古屋入管から病院に緊急搬送され、死亡が確認された3月6日の「医師診療録」を入手した。そこには、ウィシュマさん死亡時の胸部CT写真があった。片肺に非常に大きな影があり、医師診療録には「何らかの肺炎があってこれが関与しているのだろうか?」と書かれていた。
同診療録によると、コロナ抗原は陰性であったとのことだが、ウィシュマさんに面会をしていた支援団体の「START(外国人労働者・難民と共に歩む会)」によれば、ウィシュマさんは連日37℃を超える発熱に苦しんでいた。STARTの面会記録では、ウィシュマさんは2月7~10日、2月12~19日、3月2日の夜に37℃超の発熱があったという。
また、STARTのメンバーと面会した時のウィシュマさんの様子については、こう記録されている。
「バケツを持って、車いすに乗って面会室に来る。面会中に何度も嘔吐。目がうつろで話しているときも焦点が定まらない。『水も飲めない、ご飯も食べられない』『37.5℃以上の熱がある。体が石みたい』と話す」(2月16日)
「『呼吸ができない、胸が苦しい』と話す」(2月17日)
「面会した時の状態として、今回はマスクをしていなかった(マスクをしていると、呼吸が苦しいからではないかと推測)。口元に唾液がたまっていて、話すと泡になる。車いすに寄りかかっていて、上体を動かせない。腕を伸ばすことができず、指も伸ばせない状態」(3月3日)
上記のように、明らかに異常なものだった。STARTのメンバーは再三、「自分たちが病院につれていくから」とウィシュマさんの仮放免(一定の条件のもと、一時的に入管の収容施設から解放されること)を名古屋入管に求めた。しかし結局、それが実現しないままウィシュマさんは亡くなった。
なぜ、健康状態が著しく悪化しているウィシュマさんに対し、名古屋入管は適切な治療を受けさせず、入院もさせなかったのか。
法務省・入管は調査を行って、今年4月9日に中間報告を発表した。しかし、START側にも聴取したにもかかわらず、ウィシュマさんの発熱や面会時の様子について、中間報告では記載されていなかった。肺のCT写真など、医師診療録についての記述もない。
さらには、入管の非常勤医師が外部病院に向けた診療情報提供書(今年2月5日付)では、「(胃酸を抑える薬を)内服できなかったら、点滴、入院」という記述があったにもかかわらず、中間報告には「医師から点滴や入院の指示はなかった」と、真逆のことが書かれていたのだ。
折しも入管法改定案が国会で審議され、ウィシュマさんの非業の死は野党側やメディアにも大きな影響を及ぼし、政府与党に改定案を撤回させるまでに至った。だが、「ウィシュマさんをなぜ死なせてしまったのか」という件についての真相究明にはいまだ程遠い。法務省・出入国在留管理庁(入管)による調査の中間報告からは、重要な事実がいくつも抜け落ちているのだ。
亡くなる前月から、ウィシュマさんは連日の発熱に苦しんでいた
ウィシュマさんは「呼吸ができない。胸が苦しい」と言っていた
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