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アフガンの女性の安全と自由を守れ

イスラム原理主義組織タリバンによるアフガニスタン全土制圧により、早速塗りつぶされたカブールの美容院の女性の写真。アフガニスタンでの女性の人権について、国際的懸念が高まっている
鈴木涼美

写真/時事通信社

2001年へ逆戻りの旅

 明星56ビルはかつて歌舞伎町にあったありふれた雑居ビルで、その4階に入居するセクシーパブの「スーパールーズ」は、制服姿の女性たちがガンガン鳴る音楽の中、客に跨って跳ねる活気が人気で深夜番組で特集されたこともあった。  そのビルで大規模火災が起き、3階の雀荘と4階のスーパールーズの客と従業員のほぼ全てである44人が死亡したニュースは、治安に不安のある歌舞伎町でも戦後最悪の事件として記憶されている。  週刊誌には制服姿の女性たちの焼死体の写真が掲載され、放火の疑いがありながらも犯人は特定できず、後の消防法大幅改正につながるビルの防火管理についても厳しい検証の目が10日間全国から向けられた。10日間というのは、ちょうどその10日後に9・11米同時多発テロが起きたからだ。  9・11後の米国は同年大統領に就任した安直な正義感の塊のようなブッシュ(息子のほう)政権の下、テロとの戦いを掲げ、即刻タリバン政権を打倒し、イラク戦争まで始めて国際的な非難を浴びつつ、アフガン民主化を主導してきた。  同時多発テロからちょうど20年の今年、米国が軍撤収を急いでいたアフガンで、攻勢を強めていた反政府勢力タリバンがすさまじい勢いで首都カブールを制圧、大統領は国外に退避した模様だ。  米が巨額を投じて続けた20年に及ぶテロとの戦いは振り出しに戻り、お節介外交と非難されながらも治安維持と民主化に腐心してきた政策は国全体の貧困や政権内の腐敗を解決するには至らず、失敗に終わったといえる。米主導の復興プロセスに加わってきた日本の支出も7000億円程度に上る。  タリバンの攻勢を受けても撤収の方針を堅持したバイデン米大統領の判断や、この20年で超大国に成長した中国の出方、米が揺らげば当然揺らぐ日本の安全保障など、論点はいくつもあるが、差し迫って懸念されるのはアフガンでの女性の人権問題だ。  タリバンは、1996年から2001年まで政権を握っていた際、極端なイスラム教解釈で女子教育を禁止するなど女性を弾圧してきた歴史がある。今回の全土制圧後の記者会見では、「イスラム法の下で女性の権利は尊重される」と主張しているが、経験則的に信用すべきでないという見方が有力で、EUは他国と共同でアフガン女性の権利と安全の状況を懸念する声明を発表するなどしている。  すでに女性の一部が厳罰を恐れ、学校を退学し、仕事を辞め始めたという報道もある。国際社会はアフガンの女性の安全と自由を何よりもまず交渉の前提にすべきだ。    20年間、アフガンの女性たちは教育を受けて徐々に社会に進出を始めてきたわけで、それが一夜にして声を奪われるのは、火災で命まで吹き飛ばされるのとはまだ別の、長い痛みとなるはずだ。  知識と経験をつけてきた彼女たちが、20年前と同じように抑圧に甘んじるはずないと思うのは、私が暮らすのが、制服を着て男の上で跳ねる仕事が結構いいバイトだった男女格差後進国であっても、少なくとも銃で脅かされずに好き勝手言える場所だからだろう。  そしてこれが、男性が弾圧される政権ができる懸念であったら今の倍以上のインパクトで報道されることを想像すれば、女性の権利というのが今でもゴリゴリとその位置に固定していないと簡単に吹けば飛ぶものだという証しかもしれない。  男の教育や就業を禁止する政権樹立はちょっと見てみたい気もするが、女性を巡る言説が空虚ないがみ合いになりつつある日本のこの20年にも思いを馳せつつ、日頃若干うるさいなと思っているネット系フェミニストに一抹の感謝を送った。 ※週刊SPA!8月24日発売号より ’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

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