更新日:2021年12月03日 15:15
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無人運転の車内で凶行が起きたらどうすればいいのか。鉄道ジャーナリストが指摘する安全の落とし穴

無人運転、避難の判断はどうするのか?

舎人ライナー

コンピューター制御による自動運転を行う舎人ライナー

 無人運転であっても、想定上では緊急時の判断は乗客ではないという渡部氏。それはどういうとこなのか、無人運転の「日暮里・舎人ライナー」を運営する東京都交通局の稲橋氏に、無人運転の車内で事件が発生した場合、乗客が列車の停止や避難の判断をすることはあるのか聞いた。 「(乗客が列車の停止や避難の判断をすることは)ありません。乗務員の代わりに『指令員』という者が遠隔で判断をすることになります。車内の防犯カメラの映像と、乗客の方からの非常通報器で検知できるようになっています」  緊急事態の車内から、落ち着いて指令員に通報するには、心構えなども必要である。そのため、今後は今回の事件のようなシチュエーションを想定した訓練も計画しているという。 「現在は(訓練を)行なっておりません。また、乗務員や係員についても今回の事件のようなシチュエーションを想定した訓練は行なっていませんので、今後、実施を検討することも必要と考えております。  今回の事件を受けて係員による巡回にで警備の強化を図り、意識を高めています。また、今回のような異常時対応については、国が主導となって各社と検討を重ねており、局も連携して対応してまいります」

想定と現実の差から見えること

 確かに”想定上”は、通報先が乗務員であるか指令員であるかが違うだけで、乗客が行うべきことは「通報」であり、変わらないように思える。しかし前出の渡部氏は、現実はそううまくいかない可能性があるとも指摘する。通報先が同乗する乗務員であることと遠隔の指令員であることに、どうしても差が出てしまうからだ。 「現実問題、全く差をなくすことは不可能ですよね。指令員はその場にいないので、やはり通報時の的確な状況伝達が不可欠になります。犯人が近くにいる中で、それができるのかを考えると、私も自信はないです。  通報もそうですが、車内の防犯カメラの映像ですね。無人運転の電車においては、その映像が遠隔の指令員にもリアルタイムで見られるように、データ通信が必要になると思います。ですがこれはまだ、一部の路線にしか採用されていないので、今後さらなる拡大と浸透が待たれます」    乗客がパニックになって勝手に車外へ出てしまうことも、乗務員がいれば一部は抑止できるのだろうが、無人運転ではそれも無理である。パニックになった乗客が更なる悲劇を生むことも十分に考えられるのだ。 「そこは本当に心配です。人間誰でも、危険が迫ればその場から逃げようとしますね。乗客個人の判断でドアを開けるのはとても危険なんです。  まず、高低差があるので落下して怪我をすることもありますし、過去には亡くなった方もいます。無事に降りられたとしても、線路を歩くことになるので対向の列車にはねられてしまう恐れがあって、実際にそうした事故で大変多くの方が亡くなったこともあります。さらに新交通システムは、外に出ると感電の恐れがある場合もあります。ですので、無人運転では特に、指令員の指示なしに勝手にドアを開けるのは本当にやめてほしいです」
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電車に乗る際の心がけ
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Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。

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