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貧困化する歌舞伎町のなかで「病み(闇)」に抗う者のリアル 佐々木チワワ×真鍋昌平

貧困と孤立の関係

――『九条の大罪』では第1巻のアウトロー弱者が軽度の知的障害者、第4巻のぴえん系女子も虐待の精神疾患者として描かれています。こうした設定は取材の経験を反映させてのものなのでしょうか。
ぴえん

『九条の大罪』に出てくるぴえん女子のしずく。バーテンダーの男に搾取され続け、AVデビュー、そして精神が崩壊する姿は大きな反響を呼んだ イラスト提供/©真鍋昌平・小学館

真鍋:そうです。どちらも特定のモデルがいるわけではないのですが、最近は弁護士取材の過程でいろいろな事件を追うようになり、本人たちは当然生きづらく、一般社会の枠からはみ出したグループにいながら、そこでも疎外感を持っていたりする。 佐々木:知人の週刊誌編集者が「貧困特集」をやった際、どの方も孤立していて、貧困があり、そして軽度の精神障害を持っている例がすごく多かったらしくて。その後で(『九条の大罪』を)読み直すと、リアルすぎるくらいリアルで怖かったと話していました。 真鍋:僕の身近な人間も心を病んで病院に通い、(精神障害者保健福祉)手帳を持って、現在は生活保護を受けるようになったんです。自分は元気だった時代から数年間の過程をずっと一緒に過ごしてきたので、思うところがありました。泥酔して逆にそのコから抱えられてタクシーに乗せられる自分ってどうなんだってことも含めて(笑)。
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イラスト提供/©真鍋昌平・小学館

自殺者の取材で闇にのまれ自分も死にたくなった(真鍋氏)

――数々の心を病んだ女子たちが作品内に登場した『闇金ウシジマくん』では、「メンヘラは医者に作られるんだ」との印象的な台詞もありました。今までのメンヘラ系女子と現在のぴえん系女子の違いをどう感じますか。 真鍋:うつ病のふりをして生活していると本当にうつ病になると聞いたことはあったのですが、知人の友人は実際に生活保護目当てで詐病しているうちに自殺してしまった。そういう意味では貧困の話にも繫がるかも知れませんけど、昔のメンヘラはヴィヴィアンのようなハイブランドで全身固めていたイメージがあるのですが、今のぴえん系女子が愛用するブランドは格安でも見た目は揃うので若者層の間口が広がりますよね。 佐々木:確かに高いのはMCMのリュックや小物類だけで、服や靴は数千円でも買えてしまいます。薬のオーバードーズやリストカットがファッション化している傾向は私も再三指摘してきましたが、それにしたって先生が作品内でも描写された「偽装包帯」などで「病みかわいい」を演じているうちに本当に病んでしまうコもいるかもしれません。 真鍋:自分の体験談だと、取材で自殺した方の生活を追っていた際に自分まで死にたくなり、一日中自殺のこと以外考えられなくなって。その時は異変に気づいた担当編集者が僕の友人たちを連れて夜中に事務所に来てくれて軽く飲んだのですが、本当にそれだけで救われたんです。特にコロナ禍でスタッフともリモート作業、取材と作画が忙しくて家族とも疎遠になっていた時期だったので、直接人と話すことってこんなに大事なんだなと改めて実感しましたね。 佐々木:歌舞伎町やトー横にはそれを肌感覚でわかっている人が多いのかもしれません。 真鍋:歌舞伎町は人種のるつぼ。恐ろしさと優しさが入り交じり、カネがあるないにかかわらず受け入れてくれる街だと思います。 【漫画家・真鍋昌平】 神奈川県茅ケ崎市出身。社会の底辺にいる人々の生活や心理を克明に描き続ける。代表作『闇金ウシジマくん』はドラマ化・映画化もされた。現在『週刊ビッグコミックスピリッツ』で「九条の大罪」を連載中 取材・文/上野友行 撮影/長谷英史
現役女子大生ライター。10代の頃から歌舞伎町に出入りし、フィールドワークと自身のアクションリサーチを基に大学で「歌舞伎町の社会学」を研究する。歌舞伎町の文化とZ世代にフォーカスした記事を多数執筆。ツイッターは@chiwawa_sasaki

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