更新日:2022年02月09日 18:14
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隻眼の戦場カメラマン、沖縄、戦争の記憶。そして“島の女子会”

『ダンシング・ヒーロー』が頭から離れない

20代の二人(沖縄で友人撮影)

20代の二人(沖縄で友人撮影)

 後日、亮が帰ってくると、一部女子会メンバーも参加し、またも“終わりなき”うたげが始まった。私は例によって真っ先にダウンし、広間の入り口の障子にもたれてうとうとしていた。すると、外から大音響が近づいてきたかと思うと、ガラッと勢いよく障子が開いた。もたれていた私はズコッと床に倒れた。障子の向こうには二人組の男女が。男性はでっかいスピーカーを肩に抱え、大音量で荻野目洋子を流している。  そんな状況でも私は眠くて床で丸まっていた。するとこの男女が「ノリが悪いぞ!」と襲いかかってきた。それって、まさに昭和のノリ。流れているのは昭和60年代のヒット曲『ダンシング・ヒーロー』。でも二人はどう見ても平成世代。そして家は大正時代の古民家。今はいつ? ここはどこ? 島の時空は歪んでいるのか? 戸惑う間もなく強引にうたげに復帰させられ、島の夜は更けていった。  この二人は遊と亮の友達。店で吞んで盛り上がり、その勢いで予告なく登場したそうだ。そのままよそん家に上がり込み、夜更けのうたげに乱入するとは、島には大それた「剛の者」が潜んでいる。以降、私の頭の中では延々と荻野目洋子が流れている。 「今夜だけでも シンデレラ・ボーイ Do you wanna dance tonight」  寝ても覚めてもこの曲が消えない。誰か別の曲で上書きしてほしい。……そんなことより執筆の方はどうなったのかって? それはもう。順調に進んで、4月か5月頃には文藝春秋から新著が出る予定です。
執筆中の川端康成(ウソ)。古民家の大座敷で執筆中の私。手前に猫のハイちゃん。画面左に薪ストーブ(丹下遊さん撮影)

執筆中の川端康成(ウソ)。古民家の大座敷で執筆中の私。手前に猫のハイちゃん。画面左に薪ストーブ(丹下遊さん撮影)

 広間に座り、座卓で執筆する姿を、遊は「川端康成」と呼んでくれた。こう言われて私もまんざらでもない。執筆中をとらえた写真もあり、手前に猫のハイちゃんも写っている。亮が得意とするモノクロ写真なので、てっきりプロの亮が撮ってくれたと思い込み、SNSにもそう書いたが、実は遊の作品だった。確かに、ハイちゃんを写しているのは猫好きの遊らしい。失礼しました。 「私のヘタクソな写真が亮の作品だと思われたら困るから……」  遊がまたも、のろける。そんな仲良しの二人だが、時に亀裂も入る。T新聞の女性記者が亮の取材でこの家を訪れた時、黄色いタイツをはいていた。遊の目には、その女性が亮にモーションをかけ、亮もまんざらでもない様子に見えたという。 「そんなことはない。俺は何の気もなかったし、実際何もなかった」と“えん罪”を訴える亮だが、遊からは“有罪”判決が下された。近くに住む遊の両親は、「亮ちゃんはいい男だからねえ」「あれはもてるからなあ」と、火に油を注ぐ発言。私は「黄色いタイツ」事件と命名した。

島には愛がある

八丈島の朝焼け(筆者撮影)

八丈島の朝焼け(筆者撮影)

 島には愛がある。八丈島にも、沖縄にも。だが、本土の政府に沖縄への愛はないようだ。では、本土の人々の愛はどうだろう?  亮の沖縄行脚の成果は、『戦争・記憶』という作品に結実した。  死んだふりをして生き延びた少女。住民を殺害する上官を撃ち殺した兵士。沖縄戦の遺骨を掘り続けるガマフヤー。地獄を見た人々の写真とインタビューで構成されている。沖縄は本土の身代わりとなって地獄を見た。私たちが決して忘れてはならない「戦争の記憶」。愛を忘れない人たちに、ぜひ手にしてもらいたい。 取材・文/相澤冬樹
無所属記者。1987年にNHKに入局、大阪放送局の記者として森友報道に関するスクープを連発。2018年にNHKを退職。著書に『真実をつかむ 調べて聞いて書く技術』(角川新書)『メディアの闇 「安倍官邸 VS.NHK」森友取材全真相』(文春文庫)、共著書に『私は真実が知りたい 夫が遺書で告発「森友」改ざんはなぜ?』(文藝春秋)など
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