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ロシア軍はわざと市民を攻撃している!? 現地ジャーナリストが語るプーチンの非道

ロシア軍はわざと市民を攻撃している!?

逃げようとして、ロシア軍に攻撃され殺された人々の車。ウクライナ中北部イルピンにて

逃げようとしていたところ、ロシア軍に攻撃されて殺された人々が乗っていた自動車の残骸。ウクライナ中北部イルピンにて

 こうした現地の人々と時間と空間をともにした志葉氏の話と、日本で展開されている当事者不在の議論との隔たりを感じざるを得ない。  たとえば、民間人を含めた無差別攻撃について「ウクライナのネオナチの集団虐殺からロシア系住民を守るための特別軍事作戦である」とロシアが一貫して主張している。  しかし、当初から長期間激戦となっているハルキウ州では、戦争前は住民の3人に1人以上は第一言語がロシア語だった。そのハルキウ周辺に激しい攻撃を仕掛けることは、「ロシア軍がロシア人を殺している」ことに等しい。  キーウ、ブチャ、イルピン、ボロディンカ、ハリコフを実際に見て、人々から話を聞いた志葉氏はきっぱりという。 「実際の市民の被害の大きさから見て、実は無差別に攻撃しているのではなく、『ロシアに逆らうな』と恐怖を植えつけるためにわざと市民を攻撃しているのではないかとすら思います。  特にブチャでの虐殺は本当にひどいものでした。独裁者が侵略戦争を開始し、国際人道法違反である市民への攻撃を繰り返すという点で、むしろウクライナよりもロシアのほうがナチズムに毒されているのではないか」  ところが、冒頭にあげた一部の人たちは、そうは思わないようだ。

ウクライナ側に非があるかのように主張する「反戦市民派」

 開戦当初、「1万5000人のロシア系住民が、ウクライナ軍やウクライナのネオナチにより一方的に虐殺されている」というロシアのプロパガンダが拡散されていた。しかし、実際はから双方からの攻撃による犠牲者であることは、国連機関や国際人権団体の調査報告書を読めば歴然としている。  ロシアのプロパガンダは相当な威力があり、ブチャの虐殺にしても「ウクライナ政府の自作自演」などと主張し、「死体が動いている」といった荒唐無稽な内容がSNSで拡散された。ネトウヨや陰謀論者だけでなく、識者たちもそれをリツイートしていた。 「ふだん『平和主義』や『護憲』を唱える層の中にも、こうしたロシアのプロパガンダに影響されてしまっている人々がいる」と志葉氏は警告する。中でも重大な例として指摘するのは、ロシア研究者や国際政治学者などでつくる「憂慮する日本の歴史家の会」である。  特に同会発表の声明文(5月9日、第二次声明)が問題だという。 「『キエフ近郊の町ブチャでの市民の遺体が発見されるや、ロシア軍の戦争犯罪を非難する声が上がり、ウクライナ軍は怒りに燃えて、さらなる戦闘へ向かっている』と、戦争が続いているのはウクライナ側に非があるような主張をしています。まるで、プーチン大統領の代弁者です。  何よりも、プーチン大統領側の責任にまったく言及せず、ゼレンスキー大統領側や米国に戦争の責任を負わせていることが大問題だと思います」  これに筆者が付け加えるなら、停戦は求めても侵略軍の撤退をまったく要求していないことに、この声明の本質がある。  侵略の現場をまったく理解していない「第二声明」の署名者には、浅田次郎(作家)、吉岡忍(ノンフィクション作家・元日本ペンクラブ会長)、田中優子(元法政大学総長)、岡本厚(元岩波書店社長・元「世界」編集長)、伊勢崎賢治(東京外国語大学教授)、上野千鶴子(東京大学名誉教授)、西谷修(東京外国語大学名誉教授)ら各氏がいる。  このような事態は、今後の日本の平和運動や護憲運動にも暗い影を投げかけるだろう。 文/林克明(はやし・まさあき) 写真提供/志葉玲(しば・れい) フリーランスジャーナリスト。2003年3月、イラク戦争開戦直後に現地を取材、それ以降、イラクやパレスチナなど中東の紛争地取材を重ねてきた。今年4月に、ウクライナでの現地取材を敢行。同8月にウクライナ取材を収録した『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)を上梓。
ノンフィクション・ライター。週刊誌記者を経てフリーに。ロシア・チェチェン戦争を16回現地取材し『ロシア・チェチェン戦争の628日~ウクライナ侵攻の原点に迫る』(清談社パブリコ・第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞作品の増補改訂版)を上梓。ほかに『増補版プーチン政権の闇』(高文研)、『不当逮捕~築地警察交通取締まりの罠』(同時代社)など
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※志葉玲氏トークイベント情報
伊藤千尋×志葉玲 「ウクライナ危機から平和の道を考える」
日時:10月30日(日)14:00~16:30
会場:ワイム貸会議室 荻窪(東京都杉並区上荻1-16-16 ユアビルI 2階)
参加費:1000円(Zoom視聴含む)
https://hisen.peatix.com/?fbclid=IwAR1CxWSnSpQatzSeicICnexuzU3Aah5YlubYTR4fjMP0l21O_Q4nfM97SgA

ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言

ロシアによるウクライナ侵攻を取材。現地では何が起きているのか、人々はどんな生活をしているのか。現場にいなければわからない、貴重なレポート

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