更新日:2023年06月21日 18:31
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「津波の心配はありません」なぜこの言いまわし?気象庁や“言葉の専門家”に聞いてみた

言葉自体は1941年から使われていた

丹下:ただし、1941年の時点で、三陸津波警報組織が用いた予報文には、津波警報を解除するときの文言として「『津浪警報解除』(最早津浪ノ心配ハアリマセン)」 というものがあり、「津波の心配」という言葉自体はすでに使われていました。当時は、今のように即座に津波情報を発表できるような設備はありませんでしたので、あらかじめ予報文を用意しておいて、誤解を与える恐れのない文章を発表するというものでした。 ――「津波の可能性はありません」「津波の被害はありません」ではなく、判を押したように「心配はありません」という表現にしている狙いなどはありますか? 丹下:気象庁として直接回答できるような資料は残念ながらありません。あくまで感想になりますが、これらの情報は地震発生後、津波の恐れはないと伝えるためのもの。日本のみなさんに安心感を与えるために、「心配はない」という言い方になっているのかも知れません。「心配」の対義語が安心なので。

『三省堂国語辞典』編集委員が成り立ちの背景を考察

飯間浩明

国語辞典編纂者・飯間浩明さん

 つづいては、国語辞典編纂者の飯間浩明さんにインタビュー。『三省堂国語辞典 第八版』の編集委員を務め、数々の著書を出版している言葉の専門家に言語学的な観点から質問してみた。 ――言語学的に考えると、「津波の可能性はありません」「津波の被害はありません 」「津波の心配はありません」では、どの表現が最適なのでしょうか? 飯間浩明(以下、飯間):このなかでは「津波の心配はありません」が最も適切だと考えます。まず、「可能性」という言葉について掘り下げてみましょう。『三省堂国語辞典』を例にとります。 〈可能性 ①何かができるかもしれない度合い。「―をためす〔=どこまで できるか、やってみる〕・無限の―」 ②〈そうなる/そうである〉かもしれない度合い。〔いいことにも、悪いことにも使う〕「値下げの―は うすい・分量をまちがえた―が高い・―が大きい」〉 (『三省堂国語辞典』第8版 2022年)  ①の使い方は、「可能=できる」と「性=性質」の意味の単純な足し算で、ポジティブな語感です。以前の版ではこの意味しか書いていなかったんです。ただ、「可能性」は昔から「できない可能性」「失敗する可能性」などネガティブな意味でも使われるため、現在ではこの用法を②として追加しています
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よく聞き取れなかった人が「誤解するかも」
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医療従事者として都内総合病院に勤務していたが、もともと興味のあったWebライティング業界に思い切って転身。大手メディアと業務委託契約を結び、時事ネタ・取材をメインに記事を執筆。中には450万PVを達成した記事も。ちなみに国内外問わず旅行が趣味で、アメリカ・オーストラリアで生活をした経験もあるバイリンガル。現在、海外移住計画中
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