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ニュースで報じない「ハマスの最終目的」とは?日本のメディアが“中立であるフリもしない”理由

パレスチナはイスラエルに一方的に攻撃されているのか?

中東問題再考

※画像はイメージです

 NHKだけではなく、異様なまでにパレスチナに肩入れする他のメディアの記者も「圧倒的な差」を強調します。  朝日新聞のエルサレム支局長である清宮涼も「永田町から空爆の現場へ これが『天井のない監獄』か」という記事で、「イスラエルとハマスは圧倒的な軍事力の差がある」とし、イスラエルがパレスチナを占領し、ガザを経済封鎖し、対立感情を煽っているから「和平問題の解決は、遠のく一方」だとイスラエルを一方的に非難しました。  放送大学名誉教授の高橋和夫は朝日放送「教えて!ニュースライブ 正義のミカタ」に出演し、「パレスチナ いじめがイヤで やり返す」という自作の句を披露し、この戦争の契機について、「エルサレムの旧市街にあるアルアクサーというモスクがあるんですけど、そこでイスラム教徒がお祈りをしていたらイスラエルの警察が来てガス弾を投げ込んだりして、なんだ!という怒りが爆発したところがあって、ハマスとしては、これは立たざるを得ないとなって、ミサイルを撃った」と解説しました。  これを見た視聴者は、「そうか、イスラエルというのは平和的に礼拝していたイスラム教徒に突然ガス弾を撃ち込むような乱暴狼藉を働いたのか、とんでもない奴らではないか、これでは『いじめ』られたハマスが『やり返す』のもいたし方あるまい」と納得するでしょう。  しかしこれは、ハマス側の一方的な説明です。実際はアクサーモスクのある神殿の丘で、暴徒化した数百人のパレスチナ人がイスラエル警察に向かって石や瓶などを投げ始めたため、警察が対策を開始したのであり、イスラエル警官の中にはパレスチナ人に石で顔を殴られ負傷した人もいました。  イスラエル警察は、「我々は宗教の自由を利用して、数百人の礼拝者が暴動を起こし、秩序を乱し、あらゆる形態の暴力を振るい、警察官に危害を加えようとすることを許さない」と声明を出しています。  神殿の丘でハマスの旗を振る男の映像は、この攻撃にハマスが関与していたことを示唆してもいます。

日本メディアによるイスラエルへの悪質な印象操作

中東問題再考 高橋の「平和的に礼拝をしていたパレスチナ人をイスラエル警察が蹂躙した」という解説は、日本人に対し、パレスチナ人はかわいそうだと同情を誘い、テロリストはハマスではなくイスラエルの方だ、と印象操作するための偏向解説であり、これ自体がハマスのプロパガンダそのものです。  また高橋は、「ハマスとしては、これは立たざるを得ないとなって、ミサイルを撃った」と躊躇なく正当化していますが、民間人に対する無差別攻撃は戦争犯罪です。  高橋は「いじめ」られたからといって、この戦争犯罪を許容していますが、「いじめ」があろうとなかろうと戦争犯罪が正当化・許容されるようなことがあってはならないはずです。  高橋はこの戦争の実態についても、「イスラエルとハマスが戦争してるっていうと、同等にやってるような感じですけど、全然そんなことなくて、阪神タイガースとリトルリーグみたいなもんで、ハマスなんかほんとにもう……」と、「弱くても頑張るハマス」像を強調しています。  NHK同様、判官贔屓をよしとする日本人の人情に付け込み、「弱くても頑張るハマス」を応援すべきだと誘導しているのです。  しかしリトルリーグに参加しているのは野球を愛する少年少女であり、彼らは殺意を持って民間人に対する無差別テロを実行したりしません。  卑劣な無差別テロ攻撃を繰り返すハマスをリトルリーグに例えるのは、実に不適切にして悪質な印象操作です。  テレビでこのような放言が「専門家」の解説としてまかり通っているのは、どうせ誰も本当のことなど知るまいと高を括っているからです。
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メディアが報じない「ある事実」
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1976(昭和51)年東京生まれ。イスラム思想研究者。麗澤大学国際問題研究センター客員教授。上智大学文学部史学科卒。東京大学大学院人文社会系研究科アジア文化研究専攻イスラム学専門分野博士課程単位取得退学。博士(文学)。『ニューズウィーク日本版』、産経新聞などで連載中。著書に『中東問題再考』『イスラム教再考』(以上扶桑社新書)、『エジプトの空の下』(晶文社)など。

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