売春のきっかけは母親への強い憎しみ
「私みたいな人生って珍しいかなと思って。そんな私を知ってもらいたいのと、記事になったら世間の反応も知りたいんですよ」
はにかんだ笑顔と一緒に、そんな答えが返ってきた。
いまはデリヘル嬢でもあるし、傍ら売春でもカネを稼いで暮らす紗希は2年前、21歳のときに軽度知的障害だと診断された。軽度知的障害とは、知的発達が実年齢よりも低い知能指数(IQ)50~69の水準にとどまっている状態を指し、身の回りのことはほとんどひとりでできるが、言葉や抽象的な内容の理解に遅れがみられるという特徴がある。
「普通」でも「知的障害」でもないが、知能指数(IQ)が「70以上85未満」の境界知能よりの人より少しだけ知的発達が劣ると理解していい。その1年後、紗希は自分が発達障害であるASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)であることもわかった。
詳細は後に記すが、紗希が売春をはじめたのは2018年、高校を卒業してすぐのことだ。きっかけは紗希の、母親への強い憎しみであることが浮かんできた。
とりとめなく生い立ちを話す紗希(仮名)
「ずっと(母への復讐を)考えてました。お金を稼いで、早く親元から離れたいって。お母さんは私に対して教育熱心で、私生活でも清廉潔白を求め、そういうの(売春や性風俗)を異常に毛嫌いする性格だったので」
――要は自分を傷つけることで理想の母の像から遠ざけてやろうとか、困らせてやろうとか、そういう思い?
「はい。で、いちばん手っ取り早いのが自分を傷つけることで、それは売春や風俗で自活できるまでお金を稼ぎ、家を出て自活することでした」
早くこの家を出ないと「殺される」と思ったのは、紗希が小2のときのことだ。
これらの障害を抱えていると経験上、虐待サバイバーだったケースが少なくない。父はトレーダーで、母は専業主婦。都内の賃貸マンションで暮らしていたという紗希に、「裕福だったの?」と聞くと、「おかまいなしに一方的に話す」というASDの特徴があぶり出されるように
「ちょっと話がそれるかもしれないんですけど」と前置きして自分の生い立ちをとりとめもなく語り出した。
トレードで失敗した父を訪ねて家に借金取りが頻繁に来ていたこと、そのせいで小学校から給食費の滞納が続いてよく担任の先生に怒られたこと、ずっと友達がひとりもいなかったこと、どころか発達障害が原因で落ち着きがなかったり余計なひとことを言ってしまい学校で、やってもないのに盗人扱いされてたり、バイ菌扱いされたり蹴られたりなどのイジメにあい続けていたこと、自分でも「変な子」という自覚があり、先生からは特別支援学級への編入を勧められ、自分はそうしたかったけど母が頑なに拒んで普通学級で耐え続けるしかなかったこと、一方で幼い頃からプリクラ撮ったりなど年頃の子がするような遊びは一切禁止で、大学生になっても化粧やオシャレはダメでという異常な束縛と、ご飯と寝る時間以外は全て勉強机に座らされるという過度の教育虐待を受けていて家庭にも居場所はなかったこと。それでも学校の成績は悪かったこと。
月刊誌編集長、週刊誌記者などを経てフリーに。主に社会・風俗の犯罪事件を取材・執筆。著書に『売春島 「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ』、『黒い賠償 賠償総額9兆円の渦中で逮捕された男』(ともに彩図社)、『裏オプ JKビジネスを天国と呼ぶ“女子高生”12人の生告白』(大洋図書)など。X(旧ツイッター):
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