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一部だけが潤う「医師の求人業界」にメスを。“儲からない”人材紹介プラットフォームが話題を集める理由

 医療法人社団季邦会で理事長を務める鎌形博展氏が立ち上げた医師の求人サイトPro Doctorsに注目が集まっている。鎌形氏は薬学部を卒業後、薬剤師の資格を取得してMR(営業職)として製薬会社に勤務したのち、医学部へ入り直して救命救急医療に携わっていた異色の経歴を持つ人物。  既存の人材紹介プラットフォームがあるなかで、なぜ鎌形氏はPro Doctorsを立ち上げたのか。他の医師求人サイトにはない強みと、そこにかける思いを聞いた。
鎌形博展氏

鎌形博展氏

「紹介会社が潤う構図」を変えたかった

 にこやかでありながら、対峙すると身体中から漲るものを感じた。鎌形氏が立ち上げたPro Doctorsは、世の中をどう変えるのか。 「医師が病院を辞めて別の病院に行く場合、さまざまなルートがありますが、多いのが紹介会社を経由するケース。その際、紹介料として、紹介された医師の年収の20〜30%が病院から紹介会社に支払われるのが通常です。医師は一般企業のサラリーマンと比較しても高給であり、しかも短いスパンで転職していくケースが多いのが特徴。そうなると、紹介会社だけが潤っていきます。  一番の問題は、紹介にあたって現場と医師のマッチングが精査されずに行われているという点です。せっかくやる気のある医師がいても、ミスマッチによって実力が生かされない現場であった場合、病院と医師本人が不幸になるだけでなく、患者さんにも多大な影響を及ぼします。別の業界のなかには、紹介する会社が人材をきちんと育てるサポートまで行う場合もあります。しかし医師の転職の場合、求められている人材かどうかの判定を行うことは稀だと思います」

なぜ「儲からないシステム」を構築したのか

 医療現場の些細な不協和音は人命を左右しかねず、非常に繊細な問題となる。だがPro Doctorsならば、マッチングを行える。しかも、利用者にとってのメリットはそれだけではない。 「Pro Doctorsはまったく紹介料を取っていません。病院は人件費を抑えることができ、医師は高い給与を得ることができます。賛同してくれる企業様からの広告料で賄っているため、病院や医師に負担をかけないのが特徴です」  既存システムの改革。しかしながら鎌形氏の懐にはまったく影響しない。この点はやや不思議な決断にもみえる。 「私も医療法人を経営する人間として、『良い人材に出会いたい』という思いがあります。それ以上に、生命を預けている患者さんの立場になれば、やる気も技術もある医師を求めるのは当然のことでしょう。もちろん、優秀な医師が集まり、病院が上質な医療を提供すれば、評判も上がるはずです。現状のように恒常的な医師不足にかまけて、『とりあえずこの人材をこっちに』という場当たり的なやり方では、誰にとってもプラスにならないのは明白です」
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20代中盤の同期2人が亡くなって気づいたこと
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ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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