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「妖怪の刺青」が身体に刻まれた女性の“壮絶な半生”。「くさい」といじめられた幼少期、未成年のうちに妊娠

なぜ、妖怪の刺青を彫るのか

マオさん

刺青については極道だった伯父の影響も大きい

 歪な家族に生まれ、誰からも愛情を受け取ることなく育ったマオさんは、学校や義実家においても爪弾きにされた。そんな彼女が今、身体に妖怪を纏うのはこんな考えが根底にあるからだという。 「もともと刺青には憧れていました。母のきょうだいは全員ヤクザだったのですが、東北地方で組長をやっていた伯父が亡くなるときのことを私は未だに覚えています。そのとき保育園に通っていた私は、病院で横たわる伯父の腕に般若や鯉が彫ってあったのを見ました。和彫りへの特別な感情は、このときはっきり自覚しました。  なぜ妖怪を中心に自らの身体に彫るのかを私なりに考えてみたのですが、自身の投影なのではないかと思っています。確かに小学生の頃の私は、清潔ではなかったと思います。それが小学生からみて異形だったことは間違いないでしょう。だから、排除された。でも、本当は私にもみんなと仲良くしたい気持ちがあって、きっと根っからの悪人ではなかったはずです。姿形がどんなに普通と異なっていたとしても、その裏にある心まではわからないじゃないですか。でも当時の私はそう言えなかった。だから身体に刻むことで、やるせない気持ちに向き合っているのだと思います」

どうしても人を嫌いになれない

 現在は別の男性と結婚し、幸せな日々を過ごすマオさん。彼女は最後に笑ってこう話した。 「さまざまな経験をしたのに、どうしても人を嫌いになれないんです。何回も裏切られているような気がするんですが、それでも、誰かに頼られたら役に立ちたいと思ってしまうんです。母からも『騙すくらいなら、騙される人になりなさい』と言われていて。今も大切に思っている言葉です。  こうした外見でも医療に従事させてもらえているのは、私が人に接することが好きで、丁寧に仕事に向き合ってきた結果だと思っています。幼い頃に考えていたより、世界が悪いものではないなと感じています」 =====  マオさんは数奇な運命に翻弄された。それでも前を向き、フラットに人と接することで信頼を勝ち得てきた。  時折、昔話には人懐っこい妖怪が登場する。人間から疎まれ、蔑まれても、健気にありったけの愛情を差し出し続ける。私たちは時として外見だけに目を奪われるが、取り繕いのなかに真実はない。心を見ようと思ったとき、何をすればいいか。マオさんの生き方が教えてくれるような気がする。 <取材・文/黒島暁生>
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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