「福留孝介トレード」の複雑すぎる裏側
NANO編集部>
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「もし、君が将来、チームスポーツをマネージする立場になったら、最も考慮すべき点は2つだ。昔からの友達には『仕事の悩みはふたつ? シンプルでいいな』と笑われるんだけど、組み合わせは無限だから、難しいんだ」
今から数年前、サンフランシスコ・ジャイアンツのGM、ブライアン・セ―ビアンが教えてくれた、GM論を披露しよう。現職GMの在位としては最長の14年目シーズンに入った彼が、留意する最初のポイントは「外的要因」だという。
「野球のようなチームスポーツでは、相手チームや選手があり、日々の成績があり、順位やポジションの変動が起きる。自チームの調子が良くとも、それ以上にライバルが好調な場合、順位を上げるのは困難だ。ライバルは、自軍にいる場合もある。ひとつのポジションを2人の選手で争う場合、ひとりは出場機会を得られなくなる。リーグ戦のように長期に及ぶ『相対的な環境』では、“結果の半分は外部のせいである”くらいの割り切りが必要なのだ」
ふたつ目は「内的要因」だ。
「チームの主力がケガをした。主軸が不振に陥った。フィジカルだけでなくメンタル・イルネス(精神的な不調やメンバー間の不和)もある。こちらは先に上げた外的要因と比較すると分かりやすい反面、あっという間に周知の事実となってしまう。そのためメディアからの外圧もあり、素早い善後策を求められる。トレードを含めたメンバーの再構成を迫られるケースは、圧倒的にこちらが多い」
◆「第4の外野手」だった福留孝介
シカゴ・ホワイトソックスと今季1年契約を結んだ福留孝介は、「第4の外野手」=「若手外野手が機能しなかった場合の保険」としてシーズンを過ごしていた。出場機会に恵まれない彼の胸中は、さぞ複雑であったろうが、首位争いを続けるチームの一員としては、その想いを断ち切る割り切りも必要だったろう。それは勝利が第一義である「プロアスリート」の宿命であるからだ。
その一方、福留自身がわき腹を痛め、DL(故障者リスト)入りし、マイナーで再調整をする羽目になったことは、時期も含めて、何とも微妙な巡り合わせだった。
5月中旬。福留が所属していたホワイトソックスは、レギュラー三塁手のブレント・モレルが腰部を挫傷してDL入りした(現在も治療中)。そこでホワイトソックスのケン・ウィリアムスGMは、FAだったベテラン内野手のオーランド・ハドソンを獲得した。ハドソンはこれまで11年間で出場1200試合を超えるキャリアの持ち主だったが、セカンド以外での出場経験はゼロだった。
しかし、緊急事態のホワイトソックスがハドソンに託したのは「キャリアで一度も守ったことのないサード」。結果、ハドソンは25試合のスタメンを含む28試合に出場。彼がスタメン出場した25試合でチームは14勝11敗と何とか勝ち越すものの、彼の打率は.170。首位を争うチームのレギュラーとしては、圧倒的に物足りない数字だ。
おりしもそんな最中に、福留孝介が故障した。差し当たっての今季の福留は、4人目の外野手という位置づけだった。それゆえ、ホワイトソックスは大規模なリペアは急務ではなかったものの、福留の打力や経験がもたらす「層の厚さ」が欠けるのは痛手だった。
ウィリアムスGMは、次の動きに出る。同じソックスでも白と赤の違いがある、レッドソックスのベテラン選手に目を付けた。打率.326の売り出し中の新人、ミドルブロックスにポジションを奪われ、バレンタイン監督との確執も取り沙汰された「四球の神様」ケビン・ユーキリスに白羽の矢を立て、トレードを成立させたのだ。
レッドソックスでは、ライバルの好調という「外的要因」で出場機会を失ったユーキリスが、ホワイトソックスでの故障発生と補強失敗という2重の「内的要因」から出場の機会を得るのである。
メジャーリーガーの枠は25人。福留がケガさえしていなければ、ひょっとすると、今もホワイトソックスのユニフォームを着ていたかもしれない。しかしそれは、福留の本能(常に出場機会を欲するアスリートの本能)とは相反する。
他方、25人の枠をパズルのように組み換えるGMの機微によって放出された福留の未来が、決して明るい保証もない。ここで断言できるのは、ひとつのリリース、ひとりのトレードの裏には幾つものシミュレーションに頭を悩ませ、苦悩の挙句に決断したGMの決断があるということだ。
メジャー史上はじめて黒人GMの座に就いた、ウィリアムスGMの決断が、吉と出るか凶と出るか。答えを託された、福留孝介の未来と、ケビン・ユーキリスの活躍に注目したい。
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